第4話
以上、色々と蛮族ゆえの致命的、ないしはげんなりポイントを挙げてまわった。
細々とした部分や、実は王城に居る獣人族達…特に龍神族なんかは王である僕の父親に下克上を仕掛けるために入り浸ってるとか、真っ二つどころか、四肢をわざわざ引きちぎって殺す狂人が居つき始めたとかまだまだ不満点は尽きないが、まあ、僕を取り巻く環境の酷さはご理解頂けたかと思う。
正直、これからココで生きていけるのかかなり不安で、10年後どうなっているかなんてまるで見当がつかない。
どうか平和に生きていけますようにと、祈りながら今日も床につく。
そんな殺伐とした日々にある日、彩りが添えられた。
それはいつものように、真っ二つにされた人間の補充が王城に届けられた日のこと。
最近はあまりに消費が早く、いちいち自分達で補充するのが億劫になったのか彼らは、王城に勤める、というか実質真っ二つになりにくる人間を人間の国に直接、定期的に献上しろと恫喝したそうな。
結果、送られてくるのはいかにもなスネに傷持つやんちゃマン達ばかりで、時に獣人族を殺そうと逆らったり、毒殺しようと食事に毒を盛ったりと好き放題。
蛮族vs蛮族の血で血を洗う、骨肉の争いが繰り広げられるかに思われた。
しかし、結果は悲惨。
まず逆らおうとしたやつらは軒並み、真っ二つの刑。
殺気、というのか分からないがそれらしき振る舞いや意識を見せた瞬間に、ズバッ、ブシャーである。
毒殺の場合、五感が人間よりも優れているため、強い毒は吐き出される。だけならまだしも一部の獣人族はアクセントになって良いと好評。人間ならば僅か一滴で殺す毒も、彼らはワインのように飲み干せる。
どういう体の構造をしているのか。
ちなみに、エルフ一の美姫と言われ、実際に神がかった美貌を誇る我が母に対して良からぬ企みをしたやんちゃマン達は、僕が真っ二つにした。
寄り仔は普通の獣人族より格段に弱くなるらしいが、弱いと言っても音速で飛び出す銃弾を見て回避することができる男の血を継いでいるのだから、この程度は簡単である。
元日本人としては人殺しはどうかと思うものの、風が吹くくらい当たり前に人が真っ二つになっている環境に身を置いていれば、さもありなん。
愉快というわけではないが、特別不快と言うほどでもなかった。
なんなら真っ二つにしたあとで、母から野蛮人みたいな殺し方をするんじゃありませんと説教されたことの方がキツかった。
真っ二つで、1時間も説教するなんてどれほど憎く思っているのやら。
一応、貴方を守ったんですけども。
いや、礼は言われたけどさ。
あ、今更だが獣人族は脳筋の戦闘民族であれど、さすがにいつも剣を始めとした武器を持っているわけではない。では、どうやって真っ二つにしているかと言うと、素手だ。
なおさら野蛮人感がすごい。
父親からは疎ましく思われていなくても、興味を持たれてるわけではないので剣なんて貰えるはずもなく、そんな僕も止むを得ず素手で真っ二つにしたのだが、それも良くなかったのかもしれない。
感染症が怖いので、返り血は浴びないように真っ二つにしたが。他の獣人族ならば気にしない部分である。
野蛮人感はそんなでもなかった、はず。
なんなら紳士的にすら思える。
そう言い訳をすると、そもそも真っ二つにするという発想が野蛮なのですと叱られた。
そこでようやくハッとする。
いつから返り血無し真っ二つが野蛮でないと錯覚していた?
返り血があろうとなかろうと普通、真っ二つは野蛮な行為である。
文明人ならば、まず言葉の説得をし、それがダメならばそこで初めて武力行使という選択肢が浮かび上がる。
どうやら我が魂の故郷の作法、ジャパンスタイルをいつの間にか忘れていたようだ。
まあ、とはいえ相手は性犯罪を起こそうとする輩。真っ二つは無けれど、死は免れまい。
次の機会があれば切腹を促すところから始めようと考えつつ。
後日、このことを獣人族から抗議されるか滅ぼされるかと戦々恐々としていたやんちゃマン達を送り込んだ人間の国は特に何も言われず、それどころかもっとやってくれと褒められたそうな。
母曰く、彼らはやんちゃマンではなく送り込まれた人間の国の暗殺者的な存在であり、彼らを使って不意打ちないしは毒殺で強い獣人族、特に僕の父親であり王であり龍神族の頂点に位置する彼を殺せればとの考えから行われたのだろう、と。
母に下卑た視線を向け、襲おうとしたのは思いの外、殺せる芽がなく、何も為せず死ぬくらいなら最後に良い思いをしようとしての行動ではないか?とのこと。
かの国は獣人族への献上が厳しくなるどころか、自国の維持も上手くいかないがゆえの一か八かの賭けに出たのだろうとも。
まあ、結果はご覧の通りで、それどころか逆にもっと似たようなのを寄越せと言われる始末。
かの国が潰れたと母から聞いたのはそれから3日後のことだ。
最後になぜ王城に篭りながらそんなに世界情勢に詳しいのかと聞くと、彼女はニンマリと笑って何も答えてはくれなかった。
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