第3話
まず、僕が生まれたのは王族である。
王族というか、王様が僕の父親らしい。
当然ながら戦闘民族の王ということでアホみたいに強く、人類は魔法やら銃やらを持ち出して龍神族の王を討ち取ろうとしたらしいのだが、おっそろしいことに見てから躱し、時には弾き、時には打ち返し、時にはビクともしなかったという。
アニメや漫画で銃弾を弾いたり避けたりする場面があるが、基本的に銃弾と言うのは音速で飛ぶ。見てから避けるなんて到底無理である。
しかもこの世界の銃は魔法との融合がされているため、ハンドガンと呼ばれる手のひらより多少大きい程度の最小、最低威力の銃種であっても、そこそこ離れた距離から人間の頭をパーンできる威力を持つという。
地球の銃の場合、当たりどころや角度、距離や銃種によっては頭に当たっても死なないことがあるというから、異世界産の威力の高さが伺える。
もちろん獣人に対抗しようと開発された銃器はそのパーンできる最小銃よりも格段に強いはず。それを傷一つ無く、なんら気にせずに済むなど…
我が父は本当に人間かな?
龍で神とか言う大仰な言葉を使うだけはあるようである。
そしてそんな龍で神な父親は僕に対して微塵も興味が無いようだ。
これには僕の母親が関係していて、実は僕は純血の龍神族では無い。
母親は妖精族の生まれで妖精族のエルフに当たる人でかつ、そこの王族に連なる者だとか。
王族のサラブレッドだ!やったぜ!なんて言っていられたらどれほど良かったか。
龍神族は手軽に狩れる人間を主にターゲットにしているが、妖精族も例外では無い。
龍神族からの侵略行為に頭を悩ませた妖精族のエルフ一族はこう考えたそうな。
何かしらをこちらから献上し、恭順の意思を示し、色々と勘弁してもらおうと。
その献上品のうちの一つが僕の母親であり、エルフの中でも特に美しいとされた第3王女のエルマと呼ばれた彼女である。
この二人から生まれた僕は大層可愛がられた、と言うわけでは決して無い。
混血であるからではなく、母親の境遇や僕の姿に問題があった。
獣人種と別の種族が交わった場合、通常、獣人側の姿で子供は産まれる。獣人は物理的だけではなく遺伝子的にも他種族の上位に位置しているようだ。
しかし、時折そうした場合から外れ、獣人側ではない特徴が色濃く出ることがある。
獣人達はこれを自分たちよりも劣る生物に寄ってしまった子供として、蔑視の意味合いを込めて「寄り仔」と呼ぶ。
僕の見た目はエルフの母に近く、日本人的観点から言わせてもらうなら男の子でありながら妖精族の名に恥じない可憐さである。
父親から引き継いだのは爬虫類に近い縦長で濃い紫色の瞳孔くらいなもので、個人的には容姿に大満足だが龍神族からは受けが悪く、差別的目線をよく向けられる。
龍神族間では頭に生える角を誇るらしいのだが、それが無いのが蔑視の最たる理由だそうな。
父親には立派な角が二本生えていても僕からしたら全然問題がない。
あんなでかい角があったら邪魔くさくて仕方がない。
なにはともあれ、僕自身がなんと思い口にしようと、寄り仔に生まれてきてしまった僕は父親からはいないものとして扱われ、母親からはいかに龍神族がクズで粗野で乱暴で死ぬべき一族かを懇々と語られる始末。
僕が見た目通りのキッズであればとっくにグレていた。
中身大人な僕からすればいまや急な真っ二つから血袋プッシャーや父親からの無関心、王城にいる他の龍神族や獣人種達に良くない目で見られるのは慣れっこだが母親の恨み辛みの愚痴大会は未だに嫌になる。
いや、これに関しては生まれたのは時からそうだった気がする。
いい加減にして貰いたいがそうもいかない。
なにせ彼女は味方の1人もいない国に献上品として差し出され、献上品であるがゆえに僕の父親からはエロエロなことをしてやるからありがたく思えと、好きでもなく、軽蔑しかない、蛮族と蔑んでいた相手に自らの身を任せるしかない理不尽を飲み込み、やっとこさ生まれたのは寄り仔として周りからいないものとして扱われ、そしてそれを産んだ母親である彼女自身もあまり良い目では見られておらず、エロエロな行為は僕を孕んだ時の一度きり。献上品としての覚悟が、ただの一度切りで済んで良かったのか、ただそれだけなら自分である必要はあったのか、自身を売り渡した自国への恨み辛みやらなにやらでとにかく彼女は可哀想な境遇にある。
なかなか過酷な環境に追い込まれている。
不幸中の幸いがそんな風に疎まれていても、一応、王の愛人とその息子だし、ということで食べるには困らないところか。
愚痴を言う相手すらいないこの城で、唯一の味方であり親類は自らが腹を痛めて産んだ我が子のみ。
恨み辛みくらい聞いてやるのが人情だろう。
ちなみにまだ5歳児で寄り仔として他の獣人族からバカにされている僕が色々知ることができたのはこの母親の怨恨にじむ呪詛じみた話があったからだ。
あゝ、平和な日本が恋しい。
今日もこれから母親の怨恨を聞き流さねばならぬ。
「母よ、今日は昼寝がしたいです。いつもの恨み言は短めに済ませてください」
「あら、恨み言とは失礼な。これは単なる事実を述べているまでですよ。それよりもいつものように服を脱ぎなさい」
あらま、今日はそっちか。
恨み辛みをいつも聞かされると言ったが、もう一つ母親からの面倒な行為がある。
それが服を脱がせての呪いだか儀式だか良くわからん行為だ。
どうも僕が生まれてからずっとやり続けた行為らしく、魔力的な何かで僕の体に模様のような物を描き込み上げる。
彼女の境遇には同情しているし、構えずに話せるのは僕にとってもそうだ。
ゆえになんだかんだで恨み辛みの愚痴にも付き合ってはいたが、なんか良くわからない儀式ともなれば別である。
身の危険や痛いことには付き合いたくない。
ゆえに断りたかったのだが、彼女曰く特に問題はなく、また痛みもないというので好きにやらせている。
むしろ気持ちいいくらいなのだが、じゃあなぜこんな事をしているのかと聞くといつもダンマリで、教えてはくれない。
そこはかとなく不安を感じさせてくれる態度ではあるものの、なんだかんだで許しちゃうのは気を許せる相手がお互いしかいない現状、仕方ないことかもしれない。
ちなみに模様と言うか紋様は体の隅々にまで描かれている。
体内の魔力を動かしたり、母親から模様を書き入れられる時に模様が浮き出るのだが、それが性器まわりにまで展開されていたのには辟易してしまった。
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