第一章
第2話
さて、致命的な問題とはなんぞやと。
引っ張るんじゃない、勿体ぶるなと言われそうなので、さっさと言ってしまおう。
蛮族に産まれた。
なんと言ってもこれに尽きる。
致命的と言うと少々語弊があるかもしれないが、まあ、言わんとしようしていることはある程度察してもらえるかと思う。
蛮族と一口に言ってみたところで、疑問符を頭に浮かべている人は意外にいそうだ。
まあ、現代日本ではほぼ使わない言葉でありる。さもありなん。
凄く簡単に言ってしまえば蛮族とは野蛮で、暴力的で、粗野な民族のことを指す。
僕が産まれた当初、僕の意識はさほどハッキリとはしておらず、どこか夢心地でその間の記憶もまた定かではない。非常に断片的だ。
おそらくは産まれたての赤子の脳味噌に成人男性1人分の記憶やら意識やらは荷が重過ぎたのだろう。
本来、産まれたての赤子の脳の容量は成人の3分の1前後くらいだと言われている。
そして、5歳くらいには脳の重量に関してはほぼ成人と同じくらいに育つのだとか。
そのせいか、僕の意識がハッキリしたのは5歳半頃で、いわゆる物心ついた瞬間がその時。
かつ、自らが蛮族に生まれ付いたことを自覚させられた瞬間でもある。
何せ、目の前で召使らしき人が真っ二つにされたのだから。
頭から爪先まで、何ら抵抗を見せずにスパンっ、だ。
ドン引きである。人間とはかくも簡単に半分に下ろせてしまうのかと初めての凄惨な光景に夜しか眠れなかったのは記憶に新しい。
なに?夜に寝れば十分?
おバカさんめ。
子供は昼寝だって大切なのだ。育ち盛りなんだぞう。
異世界へのワクワク感が一瞬で消えた瞬間である。
すごく日本に戻りたくなった。
何か粗相をしたら僕も真っ二つにされるのではと気が気でない。
それから僕は周りの人間への聞き込みやら、探検やらをしていかにタチの悪い蛮族に生まれたのかを理解させられた。
まあ、とある理由から聞き込みは上手くいかず、話が聞けた…と言うか聞かされたのは我が母からのみだったのだが。
まず、僕が生まれたのは龍神族という獣人種の一種族の王族。で、この龍神族というのがまあ好き勝手しているようだ。
この世界では獣人族と人間族、妖精族の3種の人種が存在し、その種族のヒエラルキーのトップに君臨するのが獣人族のうちの一種族龍神族である。
最下層は人間で、僕が見てしまった真っ二つにされた人もまた人間族である。
前世で見たファンタジー小説では大抵の場合、人間が異形であるファンタジー種族たちを虐げ、そこからの逆転劇が良く見られてたものだが、現実には真逆である。
まあ、冷静に考えたらそうだ。
人間より身体能力が優れ、人の形をしている以上、人より特段知能が劣るということもあるまい。道具を使えばと思うが、それは獣人とて同じ。
単純な地力に劣る人間が食物連鎖の下位に陥るのは致し方ないといえよう。
そしてトップに君臨する龍神族の生活体系と言えば、驚愕しかない。
まず彼らは骨の髄に至るまで戦闘民族である。
農家などの一次生産者が人っ子1人存在しない。
近年、食料生産自給率が問題になっている日本とは格の違う、驚異の自給率ゼロパーセント。
では、食料はどうしているかと言うと他種族から力づくで奪うのだ。
人間族などは特にその被害が大きく、なんとまあこの国の食べ物の大半が人間族からの略奪、ないしは献上品で賄われると言うのだから色々な意味で怖い国だと思う。ただ、流石に人間族は自分の食い扶持と合わせて獣人族の分ともなると厳しいものがあり、あくまで全体の7割程でしかない。残り3割は妖精族からだと言うのだから手に負えない脳筋民族だ。
もちろん通貨もない。気になったものがあれば寄越せと恐喝し、逆らえば殺してでも奪い取る。野蛮の極みのような文化を持つ。文化という言葉を使うのも気が引けるレベルだ。
あえて良い風に言えば、狩猟民族と言える。ただし他人種をターゲットにする。ドン引きだ。
さらに言えば、僕が今住んでいる王城すら300年前に攻め落とした城をぶんどった物だと言う。自分達で建てたわけがない。気に入った住処があればそれもまた力づくで分捕るだけという、凄く頭の悪い選択肢を至極真っ当に選択し、それを出来うる武力があるのがまた溜まったものではない。
もちろん、王城で働く召使はその辺の人間の国から拐ってきた奴や献上品という名目で受け取った身柄を働かせているというのだから、その蛮族ぶりには閉口する。いや、もはや脱帽ものだ。
さらにげんなりさせてくれるのが、食い物の不味さ。
適当に拐ってきた人間に調理をさせるのだが、当然ながら都合よく調理を知っている人間であるはずもなし。
不味い飯を作りやがってと調理された物を持ってきた人間がその場で真っ二つ。
真っ二つにされる側からすれば冗談ではないだろう。
掃除をしていたら、物を落としてそれが目障りで煩かったからと真っ二つ。
歩いていたとこにたまたまぶつかったから真っ二つ。
顔が気に食わないとのことで真っ二つ。
新しい武器の試し斬りだと真っ二つ。
イライラするから八つ当たりで真っ二つ。
真っ二つにした死体を片付けるのに手間取ったから真っ二つ。
極め付けはなんとなくで真っ二つ。
と、真っ二つにされる理由には事欠かない。
そも、そんなすぐに真っ二つにするなと。
うまく要領良く長く生き残った召使も、ある日唐突に些細なミスで真っ二つにされる物だから、いつまで経っても召使は新人ばかりで、新人ゆえにミスをする。ミスをすれば真っ二つにされて新たな人間が補充されて…と言う凄惨な真っ二つループが終わらない。
そうそう何度も真っ二つを見せられれば真っ二つにも慣れてしまったよ。
慣れてしまったが、慣れても嫌になることはまだある。
まだあるのかと、それこそげんなりするだろうが、残念ながらそれから逃げ出すことはできない。
と言うのも僕の両親の問題だから。
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