石切りと王国
水面に、波紋が広がっていく。覆いかさなるように、幾つも幾つも波紋は広がる。
少年クルトは地面にしゃがみこんで、学校でつまらないことのあるたびに自分が石を投げ込んできた池を見つめている。
「人の投げた石は、投げられたことを覚えているんだ。」
ミミは、クルトに説明する。
「石が気分を害さぬように、覚えているかーい、と聞けば、こうやって、そのとき描いた波紋を再生してくれるんだよ。」
クルトは池の波紋の広がりを見る。
やけに静かだ、吸い込まれそうなくらいだ、とクルトは思う。
「でも、音は覚えてないみたいだね」
「え?」
「石切りで楽しいのは、音がするからだよ。ミミ、やったことないの?」
ミミは困ったように笑って、首を横にふった。
「やってみせて!」
「ぼく、へたなんだ」
それくらい想像つくよ、とクルトは口をとがらせた。
ミミは足元の小石をひとつ取り上げる。
「石もね、ひとつひとつに歴史があるんだ。どんな岩から削れて、どんな川を、どんなふうに流れてきたか。どういうふうに運ばれてきて、稀に学校帰りの君に蹴って運ばれたりして、そうしてこの池にほおりこまれた。描いた波紋も、歴史のひとつだ。でも、こうしてみると、」
青年はそこで少しだけ黙り込み、クルトと一緒に波紋をみつめた。
「彼らが彼らの王国を描いて、その領地の美しさを競っているみたいだね」
ミミは、パーカーのポケットのなかで小石をもてあそんでいたが、小石がぬるくなってくるころ、
「そら!」
勢いをつけて波紋の中に投げ込んだ。
はねることなく、ちゃぽんと音をたてて、石は池に吸い込まれて行った。
石が水面に当たると同時に、幾つも描かれていたまあるい広がりはおさまってしまった。
「……気分、害されちゃった?」
クルトは不安げな顔でミミを見上げて聞いた。
「たぶん」
ミミは笑って、少年に肩をすくめてみせた。
お題:名付けるならばそれは国
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