消えたボール おでんの具材

「野球やろうぜ!」

 言い出しっぺは、はんぺんだった。


 餅巾着がのそのそとやってきて、昆布も玉こんにゃくも菜箸の力によってグラウンドに集合した。はんぺんが野球をやろうと言い出したのは、キャッチボールは友情を深めるという話を聞いたからだった。彼らの世界では今日会った仲間は今日のうちに別れてしまう――。

 しかし彼は、野球というものを見たこともルールを聞いたこともなかったのだった。仕方がないなあと皆で肩をすくめた後、さんざん話し合ってまるいものを投げる競技だろう、ということだけが決まった。彼らは玉こんにゃくをおしくらまんじゅうの要領で胴上げしはじめた。次第に鍋の中が熱くなってくると、玉こんにゃくが彼らの視界からふっと消えた。魔球、という言葉がはんぺんの中に浮かんで消えた。はんぺんは感動しかけたが、玉こんにゃくが遠い世界に行ってしまったのだと気づいたとき、切ない思いにおそわれた。


「あー煮え立って来たからお別れだな」

「所詮おれたちに鍋の中でヤキューだなんてむりだったんだよ!」

「あきらめんのかよおまえ!」

「でもボールは……消えちまったんだ!」


 鍋の外のお茶の間ではテレビで野球を中継をしていた。玉こんにゃくはその瞬間、野球のボールの投げられるのを見た。

「わかった!ぼくわかったよみんな、これが!


お題:見知らぬ野球

必須要素:鍋

制限時間:15分

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