おさかな即興小説

おらり

宿命の夢

 むかしむかし、あるところにヤドカリが川に宿を借りて住んでいた。この川ヤドカリは前世は鬼が島の鬼で、慈善事業しかしていないのに桃太郎に討ち取られたことを大層根に持っており、再び世に生まれ落ちるであろう彼を若い芽のうちに摘み取ることを自らの宿命であり夢であるとしていた。


 ある日ヤドカリは、今宵この川に流れてくる山梨こそが桃太郎の生まれ代わりであり、次の鬼討ちの逸材だと知る。

 星降る夜のことだった。ヤドカリは山梨を川のなかで待ち構えた。落ちてきた山梨のなかの子どもをどうしてやろうかと思ったとき、

「たべないで!」

という言葉がヤドカリの耳に聞こえた。なんと桃太郎は山梨そのものに転生していたのである。


 山梨は岩にひっかかってヤドカリのもとにとどまったが、鬼討ちのことをすっかり忘れており、ヤドカリはどうにも殺す気になれなかった。山梨は嬉々として生まれた山の美しいことを語り、その言葉によってヤドカリは落ち葉でしか感ずることのできない山をその目に見ることができた。


 ヤドカリは山梨の腐りゆくのを見届けた。恨み憎しみは一片もなかった。すべて終わったとき、山梨が打ち取ったのは自分のなかの心の鬼だったのだ、そうヤドカリは考えるのだった。


制限時間:15分

お題: 宿命の夢

必須要素: 昔話パロディ(ギャグ)

元ネタ: やまなし 桃太郎

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