第三十五話

−−あなたの人生は幸せでしたか?


祖母の葬儀が全て終わった。

一度祖母の家、今では伯父の家に行き、親族で最後の思い出話しなどをした。

ガラクタだかお宝だかわからない祖母の形見分けをしたのだが、皆遠慮するので、僕は青い大きな宝石を一つだけ頂いておいた。


ひとしきり話が済むと、

「それじゃ、ご苦労さん」

と、伯父は単身赴任先へ車を走らせて行った。

僕は、父の借りたレンタカーで両親と一緒に駅まで行くことにした。

帰り支度をする母を待つ間、庭を眺めながら、祖母が居ないこの家にはもう来ることはないかもしれないな、などと思った。


両親と三人で伯母に挨拶をし祖母の家を出発する。

バックミラーを見ても、もう見送ってくれる祖母はいない。


駅に着き、レンタカーを返す。

これからどうするのか?と父に聞かれたが、僕はもう少しフラフラするとだけ告げた。

両親の乗る上り列車が先に来るので、改札で別れを告げた。


僕は自分探しの旅を続けることにした。

新幹線を待つ間、改札から引き返し、駅前の広場を散策していると、突然音楽が流れ出した。チェロの低音が響く。

お腹の奥から背中を通って頭の先が痺れるような感覚になる。

この優しく穏やかな曲はシューマンのトロイメライ。

夢想、夢想にふけること。

祖母は何を夢見ていたのだろうか?


伯父の言っていたことを思い出す。

仮に、伯父が言ったことが真実だとして、双子がそれぞれの運命を入れ替えたのだとしたら、それは二人が望んだものだったのだろうか。

それとも何か、抗うことのできない誰かの思惑のために、仕方のないことだったのか。

今となっては真実に辿り着くことはできないかもしれない。

そして、正解など、どこにも存在していないのかもしれない。

祖母は、そしてもう一人の祖母は、目の前の道をひたすらに、幸せになるために生きていたのだろう。

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