第二十八話
年が明け、貴子は嫁入りの、豊子は進学の準備を着々と進めていた。
今日は二人揃って、母・富子に料理を教わっていた。
嫁入りする貴子はもちろん、寄宿舎で生活する上でも、料理の基本的なことくらい覚えておいた方が良いだろうと富子が言い出したのだ。
いわゆるお袋の味を娘に伝えることは、富子の喜びでもあった。
そんな母娘の幸せな時間に喜三郎の声が割り込んできた。
「富子さん、貴子、ちょっと大変だ」
まだ午後三時だというのに、喜三郎が帰宅したのだ。
「あらあなた、どうなさったの?」
「新井さんの奥方が亡くなられたらしいんだ」
「えっ!奥方って耕太郎さんのお母様ってこと?」
貴子が驚いて喜三郎に聞く。
「ああ、そうだ。あんなに元気だったのに、急に亡くなられたそうだ」
「信じられない…。どうしましょう…」
茫然自失の富子。
「とりあえず、新井さんにお悔やみの電報を送っておいたから、葬儀の日取りなどの連絡を待とう」
「貴ちゃん、お嫁にいけなくなっちゃう?」
「智恵子、そんなことはないよ。むしろ、女手が必要になるだろうから、貴子は何かと頼りにされるかも知れない」
喜三郎に同意するように豊子が、
「耕太郎さんのお母様も、御子息の結婚を直前にして無念だったでしょうけど、耕太郎さんも力を落としているに違いないわよね。貴ちゃんが力になってあげないとね」
と言うが、
「そうね」
と貴子は暗い表情のまま返事をした。
「でも、私にできるかしら…」
いつになく弱気な貴子を見て少し心配になる豊子。
−−貴ちゃん…。でも私にやってあげられることなんて何もない…。
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