第二十二話

「もうこれで、師範学校には受かったようなものね」


「そんな、まだ早いわよ。試験を終えてきたばかりなのよ?明日には面接だって残っているし」


「豊ちゃんが不合格なわけないじゃない。無事受験できれば合格だって、先生方もおっしゃっていたわよ」


東京の女子師範学校の受験のために上京した豊子。富子と貴子も付き添いという名目で一緒に上京していた。


「だけれども、東京という街はビルディングがたくさんで、なんだかとても空が狭いわね」

貴子が空を見上げながら言う。


「本当にね。私は少し息苦しいわ」

富子が同意する。


「それだけたくさんの人が集まっていて、活動的に生活しているってことよ。私は活発さを感じるわ」


「そうねえ。ま、豊ちゃんが私みたいに何かを悪く言うところなんて聞いたことないので、参考にならないけどね」


「それは貴ちゃんが何でもかんでも思ったことを言うからでしょう?」

二人は笑いながらお互いのことを言い合う。


「ほら、あそこ。着きましたよ」

富子がすき焼き屋を指差す。


「わあ〜、私おなかぺっこぺこ」

貴子が大きな声で言う。


「あら、あなたが試験を受けてきたのでしたっけ?」


富子に指摘され、ぺろっと舌を出す貴子。

三人で顔を見合わせ笑う。


「でも私もおなかぺこぺこよ」


「豊ちゃん、食べ過ぎて具合悪くならないようにね?明日は面接があるのだから」

貴子が豊子をからかう。


「私が具合悪くなったら貴ちゃんが代わりに面接を受ければいいじゃない。絶対にバレないわよ」

珍しく豊子が冗談を言うので可笑しく思う富子。


「でも、そうね。親の私ですら見分けがつかないことがあるくらいですから、きっと面接の先生にはわからないでしょうね。いざとなったらそうしましょう」


富子が真面目な顔で言うので、貴子と豊子は驚いて顔を見合わせた。

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