第二十話

「豊ちゃん」


枕元の明かりで読書をしている豊子に、布団の上に仰向けになり天井から下がる灯りを見つめたままの貴子が話しかける。


「なあに?貴ちゃん」

本を閉じ、貴子を見る豊子。


「あのね…」


「うん…?」


「ケチんぼがいたのよ」


「え?けちんぼ?」


「そうよ。佐田にいた日焼けケチんぼ男よ」


「ああ、あの、佐田の露店にいた、男の人」

豊子は、どきっとした気持ちを悟られないように、探るように言葉を発した。


「そうよ、あいつだったのよ」


「何が?」


「お見合い」


「え!」


「私、あの男のところに、お嫁に行くのよ」


「まさか!…そ、そうなの」


「本当に、まさか、よ。信じられない。私、お父様のためとか、幸せなんてどうにでもなるなんて言ってたけど、こんなことが起こるなんて、予想していなかったわ」


なんて言葉をかけるべきかわからない豊子。貴子を見ると、寝転がったままじっと天井を見つめている。


「豊ちゃん」

急に起き上がり、豊子の顔を見つめる貴子。


「豊ちゃん、あの男のこと、好きでしょ」


「な、何言ってるの!?」


「だって、最初から好きだったでしょ?佐田の駅であった時から」


「そ、そんなこと…」


「わかるよ、私。豊ちゃんのこと、ずーっと、最初から、知ってるもん」


「貴ちゃん…」


「私、幸せの形なんて色々あって、人それぞれで、私はどういう境遇になっても幸せになれると思ってたわ。でも…、でもね、これだけはダメなの。豊ちゃんも幸せにならなきゃダメなのよ。それが一番大事なことなのよ」


「貴ちゃん…」


「私、豊ちゃんが好きな人のところになんて行けない」

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