第十九話

貴子たちがお見合いから戻ってきた。


「お帰りなさーい。どんなお料理だった?お土産は?」

お見合いのことよりも、料理のことが気になる智恵子に呆れ顔の富子。


「智恵子。まずは、お見合いどうでしたか?でしょ?」


「お見合いどうでしたか?…お料理美味しかったですか?」

それでも料理が気になる智恵子に皆は呆れながら笑う。


「智恵子。お料理、とても美味しかったわよ」

貴子が代表して答える。


「特に、舌平目のポワレーと言うのが私は好きだったわ。外側はパリッとしているのに、中はふわっと柔らかくて、そして香りの良い野菜のソースがかかっているの。あ〜、思い出しただけでまた食べたくなってきたわ」

智恵子は目を瞑り、想像を巡らしているようだ。


「それで、お見合いはうまくいきましたか?」

豊子が喜三郎に聞く。


「うん。つつがなく運んだよ」


「そう、それは良かったわ。どんな方だったの?」


豊子の質問に、貴子はバツの悪そうな表情をし、視線を逸らした。


「とても誠実そうな青年でしたよ。体も大きく健康そうでしたし」

代わりに富子が答える。


「そうだね。ちゃんと自身のこと、事業のこと、地域の農業のことも考えていて、しっかりとした若者という印象を受けたよ」

喜三郎の印象も良かったようだ。


「それはよかったですね。貴ちゃんはどう思ったの?」


「お父様、お母様の言うように、自分の考えをしっかり持った人だと思ったわ。まあ、少し…、頑固とも言えるかもしれないけど…」


言い澱むような貴子を見て豊子は不思議に思ったが、

「お父様、智恵子も舌平目、食べたい!それとお土産は?」


智恵子の無邪気さに話を持って行かれてしまった。

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