第十七話
「貴ちゃん素敵!」
智恵子の言葉に皆が同意した。
見慣れない和服姿は、凛とした貴子をより一層際立たせた。
「ほんと、素敵よ、貴ちゃん」
「ありがとう。でも着物っていうのは本当に動きづらいわね」
今日がお見合いだというのに、いつもと変わらぬ様子の貴子。
「用意はできたかい?」
「ええ、お父様」
「じゃ、出発しようか」
お見合いは、この頃ではまだ珍しい西洋料理を提供する店での会食で、貴子もとても楽しみにしていた。
「貴ちゃん、いいなあ。私も行きたかったなあ」
「智恵子、お土産持って帰ってくるからね。楽しみにしてて」
「ほら智恵子、二人で留守番してましょ」
豊子が言い、両親と貴子を玄関から見送る。
「行ってらっしゃい。素敵なお方だといいわね」
「そうね。どうせなら素敵な人だといいわよね」
人ごとのように言う貴子に豊子は、
「もう、貴ちゃんたら。自分のことなのよ?」
「そうなんだけどね…。結局、旦那様がどんな方でも、私は私なのよ。そう思うと、お見合いなんて、相手なんてどうでもいいなって思っちゃって」
いつもと変わらぬ様子の貴子に安心しながらも、
「でも、いきなり粗相をして破談になったりしないようにね」
「それ笑えないわよね」
真顔で言う貴子に思わず笑う豊子と智恵子。
「とにかく行ってらっしゃいませ」
「いざ、出陣いたーす」
いつまでもふざける貴子に、豊子は少し違和感を感じながらも、玄関から見送った。
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