第九話
「いい加減、お父さんに会ってよ」
「うーん。そうだよね」
「もう!いつもそうやって生返事」
「うん…、そうだよね…」
恋人の咲希は、学生時代からの付き合いで、かれこれ10年にもなる。
僕が優秀な学生だった頃から、期待の若手研究員だった頃を経て、うだつの上がらない研究員になった今でも見捨てないでいてくれている。
以前、仕事がうまくいっていないことをこぼしたことがあるが、『仕事なんてあなたの一部でしかないでしょ?そんなことであなたを嫌いになったりはしないよ』と言ってくれた。
嬉しくもあったが、少し辛かった。
こんな僕に付き合っていないで、もっとまともな人間と一緒に幸せになってくれたらいいのにと。
「……生きてますか〜?」
咲希の声で我に帰る。慌ててスマホに耳をあて、返事をする。
「ごめん、考え事してた」
「どうせろくでもないことうだうだ考えてたんでしょ?もういいわ。明日も早いんでしょ?とりあえず、今日はおやすみ」
「うん…ごめん。またね、おやすみ」
通話オフのボタンをタップし、大きく息を吐き出す。
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