第四話

露店では瓜や茄子などの青果のほか、粟や稗などの雑穀、それを菓子にした団子などが売られていた。

露店の一番隅に貴子はいた。近付くと、背の高い男と口論をしているのが聞こえた。


「どうしてお米がこんなに高いのよ!」


「どうしてったって、不足してるんだ。欲しい人がいれば、高くしても売れるんだ。いいじゃないか」


「不足していて必要な人が手にできないのなら、安くしてあげるべきじゃない?」


「んなことしたら。俺たちが食っていかれなくなっちまうじゃねえか」


こうと思ったら絶対に曲げない貴子が食ってかかっていた。

とにかく、その場から離れさせようと、豊子が近寄っていく。


「うわっ!もう一人現れおった!」


「もう一人とは失礼ね。私たち双子なの!」

怒ったままの調子で貴子が言い放つ。


「ほえ〜っ。双子っつうの初めて見たわ。良く見とこうっと」

と、男に顔を近づけられ少し戸惑う豊子。男の顔は良く日に焼け、丸い目だけが白くくっきり浮かび上がるようだった。


「と、とにかく貴ちゃん!…もう、戻らないと電車出ちゃうわよ!」


「あらもうそんな時間?わかったわ、戻りましょう。お兄さん、とにかく、良いこと?私の言うことを聞いて、お米をみんなが買えるようにするのよ?わかった?誰かひとりだけじゃなくて、みーんなが幸せになる方法を考えるべきじゃない?」


「だからあ、そんなことしたら…。もういいわ、はやく行け。電車出ちまうぞ」


しっしと言う風に手を振る男に豊子は軽く礼をし、先に踵を返した貴子の後を追うように電車へ戻っていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る