第二話

「ああ〜、疲れた〜」

玄関に腰を下ろしそのまま後ろに仰向けになる貴子。


「まあ、はしたない!」

迎えた母の富子が貴子を嗜める。


「お母様、貴ちゃんはとても立派に祝辞を述べていましたよ。少しくらい安心しても良いではありませんか」

貴子を庇う豊子。

仕方のない子たちねえ、という顔をする富子。


「そういうあなたは?」


「豊ちゃんだって、堂々と歌っていましたよ」

貴子が答える。


「ほんとよ、お母様。貴ちゃんも豊ちゃんも、とっても素敵で、先生方も褒めていらしたのよ。私とても鼻が高かかったわ。私はあの二人の妹なのよって!」

新一年生として入学式に参加した妹の智恵子が嬉しそうに話す。


「智恵子?他人のこと自慢していないで、自分を磨きなさい?」


「まあまあ貴ちゃん。智恵子も喜んでくれて良かったじゃない」


「豊ちゃん、私は智恵子のためを思って言ってるのよ。智恵子だって4年生になるときに、私たちみたいに皆の代表になれるんだから」


母親の富子は、3人のやりとりを微笑ましくも、少し心配して見ていた。

頭の回転が早く、リーダー気質の貴子。

物事を俯瞰して見ることができ、優しさに溢れる豊子。

あまりにそっくりの見た目で、母親である富子でさえ間違えることがある貴子と豊子。

そんな二人の姉に憧れる甘え上手な智恵子。

世の中は物凄い早さで変化しており、女として生まれたからには良妻賢母であるべし、と教育を受けた自分の時とは違う。

3人ともが高等女学校に通いはしたが、いったい娘達の将来はどうなっていくのだろうか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る