第23話 第四章-7「世界を再構築」
予告通り、真仁は翌日学校を休んだ。その時に言われた言葉を総合すると、真仁の方は自分が学校に出てくるまでカラシノと会うつもりはなかったようだが、カラシノの方はそんな言いつけを守るつもりなど無かった。
翌日も真仁の家に訪れると、文句を言われる前に頼まれていたマジン界の被害状況を話し始める。そうなると真仁も無下には追い返せない。結局、そのまま部屋に通す事になってしまう。
カラシノが呆れたことに、真仁は「トラリサ」を終盤まで進めていた。すでに竜王のいる城内に乗り込んでいたのだ。学校をさぼってゲームに興じていたと言われても言い返せる状況ではない。
もちろんカラシノはそんなことを咎めたりしない。むしろ「トラリサ」が一日で解けるということに驚きを感じていた。いや、どう考えても真仁がろくろく休みもせずに、ゲームを進めたせいだろう。昨日死にかけた人間の行動ではなかった。
「死ぬ原因が、除かれてはいないんだ。対処法を確立する方が緊急課題になるのは当然だろう」
さすがにカラシノが指摘すると、真仁は平然と返してきた、それによくよく話を聞いてみると、睡眠時間はきっちり取っていたらしい。合計で十二時間ほどのプレイでここまで来られたそうだ。やはり昔のゲームというべきだろう。
「答えを見ないと逆算で世界が構築できないからな」
「逆算?」
「つまりこれは、プレイヤーを上手く誘導して竜王を倒させるゲームなんだ。だからすべてのイベントがそこに向けて逆算されて組み立てられている」
夢も希望もない結論を導き出した真仁。さすがに世界に絶望している男だ。
「で、被害状況は?」
「あ、うん。ジ……メジムラハーメイトンから整理されて伝えられたから……」
そう切り出したカラシノは、昨日の真仁の推測――レフがゴーレムを作り出して攻めてきた――が当たっていたことを告げた。
住民は皆、城の中に避難していて無事だったが、城の方はその代わりに半壊状態、城の周りの集落に至っては壊滅状態となった。ゴーレムに踏みつぶされたのももちろん、メジムラハーメイトンが大規模破壊魔法を放ったのが致命的だったらしい。
他にもあの広い森の大半が消失、川はゴーレムの残骸で流れが変わってしまった。
「……知った顔が全員無事だったのが救いだけど、昨日はちょっとへこんだ」
「その辺りは経験の差だな。一度亡国の憂き目にあっている分、対処できたのだろう」
「で、どうするの?」
「まずは新しい城を造る。今までのものより大きくしよう。街も城壁の中に作った方がいいな。その辺りは任せる。森は元に戻そう。川の辺りには人を近づけさせるな、全部リセットして新しいものを流す」
「よし、んじゃ早速……」
その場で横になろうとするカラシノ。それを見て真仁はため息をつきながら、
「この際はっきり言うぞ――君は本物の馬鹿か。ここは僕の部屋だぞ」
「マジン君が寝込みを襲わなきゃいいだけの話じゃない。そんな簡単なことも出来ないなんて、マジン君こそ馬鹿じゃないの?」
「一般常識の話をしている。それに説明がまだ途中だ」
「え? なんかあったっけ?」
「今までは復旧の話で、これからは新しい世界の仕組みの話だ」
「仕組み?」
不思議そうな表情を浮かべるカラシノ。
「当たり前の話だが、向こうの連中のスペックには手出しできない。だから強制的にレフを弱くしたりは出来ない。つまりこのまま行くと、ど素人の女を町を破壊できるほどの魔術師の前に放り出すことになる」
なるほど、とカラシノは頷いた。
「が、僕は世界と君のスペックには干渉できるようだ」
それが判明したきっかけが、自分のウェストサイズ詐称だということに、カラシノは改めて気恥ずかしさを感じる。
「なので基本はこうだ。レフという魔術師の基本がゴーレムを製造するということなら都合がいい。世界のあちこちにモンスターを放たなければならない、ということにする。もちろん地域ごとにモンスターの強さを調節してだ」
そうすると、一般的なRPGに極めて似た世界が生まれることになる。だが、もちろんそれだけではカラシノは弱いままだ。
「そこでこういう仕組みを考えた。モンスターは基本ゴーレムなんだ。当然、すべてにレフの魔力が使われている。で、君がそのモンスターを倒していくと、その魔力をぶんどれることにした」
「え? えーーっと、ちょっと待って。今整理するから」
つまり通常のゲームだと経験値やお金が手に入るところが、魔力に入れ替わっているというわけだ。だが、それでは問題がある。
「マジン君じゃないけど、魔力もらったって私にはどうしようもないよ。魔法わかんないんだもの」
「集めた魔力は武器と防具の強化に使用できることにした。こうすれば、君の腕が未熟でもそこそこの敵とは、戦えるはずだ」
「そこそこ?」
「そうやって戦っているウチに、君も戦い方のコツか何かを掴んでくるだろう。そうすれば、そのコツを上手くいかせるように自分を変えていけばいい」
カラシノは少し上を見上げて、
「腕を三本にしたり、頭の後ろに目を付けたり?」
カラシノがそう尋ねると真仁は、少しだけ驚いた表情を浮かべ、
「それがしたいなら、そういう身体にして制御できる自信があるなら、それも有効かも知れない。ただ、僕が考えていたのは筋力を上げるとか、視野を広くするとかそういう感じのことだったんだがな」
「ああ、なるほどね。了解了解」
「これでレフを弱体化しつつ、君を強化する仕組みが出来上がった。詳細はさらに煮詰めねばならないとして、恐らくはこれで行けるだろう」
カラシノは再び、真仁の整えた新たなマジン界の仕組みを整理しにかかる。真仁も説明は終えたのか、再びモニターに向かった。何しろあと少しで竜王の下に辿り着けるところまで来ているのだ。
「……わかった。それじゃ私、色々と用意するね」
「用意……って何を?」
「マジン君、私の家に来るぐらいは出来るよね。どうせ車なんだし」
「それはまぁ、君がアクセルをベタ踏みしないのなら。おい、用意って……」
再び問いただそうとする真仁を置き去りにして、カラシノは部屋を飛び出した。そのまま団地の階段をすさまじい勢いで下りてゆく足音が聞こえてくる。
真仁はカラシノの言う“用意”を予想しながら、着替え無ければならないことに気付いた。今さらながらにパジャマ姿だったことに気恥ずかしさを感じてしまう。
だが夜ごと頭の中を覗かれているのだから、今さらと言えば今さらながらの感情だ。
そう切り捨てた真仁は、竜王との最後の決戦に挑む。
一時間後、カラシノに拉致された真仁はまず体力回復のためにと銘打たれたごちそう攻撃に遭った。正直、病み上がりと変わらない身ではカロリーが過多なものも、量が多いのも勘弁願いたいと思ったのだが、食べ始めると自分でも呆れるほどの量を平らげることが出来た。これから大規模な世界の改変を行うとならばこれぐらいは必要だろう。
いや、これは身体全体で超回復が行われているのかも知れないな、と真仁は自己分析する。
食事を終える頃に、夕闇の空を裂いてヘリコプターが山頂に現れた。それも民間で使用されているような小さなものではなく、アーミーグリーンに塗装された大型の――恐らくは軍用の機体だった。
ヘリの所属している組織のことは詳しく聞かないように心がけた真仁だったが、さすがに運ばれてきたものには関心を抱かざるを得ない。
黙って見ていると、所属や階級章を全部取っ払った軍服を着た、様々な人種の男達がヘリからコンテナを運び出してゆく。そしてコンテナの扉を開けると、男達はヘリに撤収し夕闇の空へと飛び去っていった。
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