第3話 永久コンボ
ここで死ぬ……
いや!いやいやいやいやいや!
死んでたまるかよ!こんな所で!
絶望に一瞬生きる事を放棄しそうになったが、直ぐに正気に戻る。
何故なら俺には強力なスキル、永久コンボがあるからだ。
巨大な竜を倒せるとは到底思えないが、これを使えば逃げる事ぐらいなら出来るはず。
「生贄か……それも異世界人の」
異界竜が口を開いた。
その声は雑音の様なノイズが混ざっており、俺の心に強い不快感を与えてくる。
トカゲの声帯で無理やり人間の言葉をしゃべった様な感じだ。
「なかなか、美味そうだ」
竜が長く黒い舌を出し、舌なめずりする。
それを見て、心臓を掴まれたような恐怖が俺の全身を駆け巡った。
体が生きる事を諦めたかの様に、強く震え、腰から力が抜そうになる。
だが俺は必死に恐怖に抗い、周囲を見渡した。
幸い、直ぐ近くに手ごろな石ころが落ちている。
俺はゆっくりとその石を拾い上げた。
「ふ、ふぁはっはっは。その石ころでどうするつもりだ?まさか俺と戦うつもりか」
竜が愉快そうに笑う。
まあ確かにちっぽけな人間が石ころを拾った所で、巨大な竜相手に何かが出来るとは思えない。
馬鹿にされても仕方が無いだろう。
だが俺の永久コンボなら、意思を籠めた攻撃が当たりさえすれば発動させる事が出来る。
そこにダメージの如何は関係なく、とにかく攻撃を当てさえすればよかった。
冷静に考ると、さっきアイリーンに髪を掴まれた時に手でもつねって発動させていればこんな状態にはならずに済んだろう。
だがさっきはいきなりの事で対応できなかった。
まあ今更悔やんでも仕方がない。
俺は深呼吸する。
今のガタガタと体が震えている状態では、投げても届かない可能性が高かった。
だからと言って、竜に近づくのは本能的な恐怖から出来そうも無い。
大きく深呼吸して心身を少しでも落ち着かせなければ。
「くくく、どれ」
俺が深呼吸を続けていると、それまで座っていた竜が急に立ち上がって動き出した。
別に俺に対して攻撃を仕掛けるつもりではない様だ。
俺はほっと胸をなでおろす。
今の恐怖で体が震えている状態で襲われていたら、一発アウトだった。
しかし竜は一体何のために動いたのだろうか?
「出入り口は塞がせて貰ったぞ。さあ、その石ころで俺を倒して此処から脱出してみろ」
よく見ると竜の尻尾が壁面に突っ込まれてある。
そこが出入り口だったのだろう。
最悪だ……
俺は永久コンボを使って動きを封じ、ここから脱出するつもりだった。
だがその巨体で出入り口を封じられてしまっては、それが出来ない。
いくら攻撃し放題になるとはいえ、非力な俺に竜を倒すなど不可能だった。
「どうした?来ないのか」
竜は明かに俺をこけにして楽しんでいる。
ムカつく奴だ。
だがどうすれば……とにかく、発動だけはさせよう。
俺は気持ちを入れ替え、取り敢えず永久コンボを発動させる事にする。
対策方法は後で考えればいい。
このままぐずぐずしていれば、いずれ飽きた竜が俺を襲ってくるのは目に見えている。
その前に動きだけは封じおきたかった。
俺は覚悟を決めて大きく息を吸い。
そして吐きだした。
「おおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!」
雄叫びを上げる。
緊張や恐怖で固まっている時は大声を上げて自分を鼓舞するといいと、そう何かで見た記憶がある。
それが何かだったかまでは覚えていないが、俺は声を振り絞って叫び、そして軽く助走をつけて手にした石を竜に向かって投げつけた。
投げた石は真っすぐに飛んで、竜の硬い鱗に当たりパコリと軽い音を立てて弾かれる。
だが問題ない。
当たりさえすればいいのだから。
俺の【永久コンボ】は問題なく発動する。
「よっし!」
俺はガッツポーズする。
兎に角、これで時間だけは稼げるはずだ。
「何を喜んでいる?お前の攻撃は、毛ほども私に――っ!?」
竜の言葉が途中で途切れた。
どうやら気付いた様だ。
自らの異変に。
「これは……体が……貴様一体何を……」
竜は必死にその巨体を動かそうとしている様だが、その体はピクリとも動いていない。
強い相手には効きません的な仕様だったらと少し不安もあったが、問題なく効果が発揮されている様で安心する。
「永久コンボの効果だ」
「効果だと?馬鹿な……我に状態異常など……」
竜は俺をその巨大な目で睨み付ける。
だがもうビビらない。
何故なら相手は動けないからだ。
それを認識した事で、俺の中から恐怖が自然と抜けていくのが分かる。
まだ危機を脱したわけではないが、人間の心や体という物は思ったより現金に出来ている様だ。
「俺のスキルさ」
スキル【永久コンボ】とは、攻撃を当てる事で発動するスキルだ。
攻撃がヒットした相手はダメージの通る通らないにかかわらず、全ての耐性を無視してその動きが30秒封じられる。
俺は曲げた中指を親指の腹で押さえ、そしてデコピンする。
何もない空間に。
【永久コンボ】とはその言葉通り、攻撃を続ける限り相手の動きを封じ続ける効果がある。
正確には再度攻撃を仕掛ける事で、相手の動きを封じる時間が30秒にリセットされるようになっていた。
更に付け加えるなら、2発目以降の攻撃は当てる必要すらない。
敵意を籠めて攻撃しさえすれば、仮にそれが当たっていなくとも当った扱いになる。
しかも当たった場合のダメージを、好きな場所に選ぶ事が出来た。
その為、先程の何もない空間にしたデコピンは竜に当たった扱いになり、行動不能時間がリセットされている。
「とは言え……どうしたもんか……」
試しに思いっきり蹴り上げた。
狙いは相手の目玉だ。
だがドラゴンはピクリとも反応しない。
うん、絶望的。
体の中でも特に柔らかいであろう眼球を全力で蹴っても全くダメージがないのだ。
どう足掻いても倒すのは無理だ。
一応生殖器や肛門なども弱そうではあるが、どちらも眼球程度の耐久力はある筈。
「何かないか……」
デコピンで竜の動きを止めつつキューブを出し、改めてスキルの概要を確認する。
自慢じゃないが、俺は記憶力が余りよくなかった。
だから気づいていないだけで、実は逆転の仕様がどこかにあるかもしれない。
そう思い、再確認する。
「攻撃は武器ありでもいいのか」
武器有りでも判定してくれるのは有難い。
近くに大きめの石が落ちている。
これで根気良く攻撃すれば、目玉ぐらいは潰せるかもしれない。
とは言え、仮に眼球や性器を潰せたとしても、それが致命的なダメージになるかと言われれば微妙だ。
どう見ても生命力の塊としか思えないドラゴンが、それで死んでくれるとは思えなかった。
「それにこのまま殺せても、それはそれで不味い」
仮に殺せても俺の腕力では奴の巨大な尻尾を出口から引き抜く事は出来ないだろう。
そうなれば俺はこの洞窟に閉じ込められ、待っているのは餓死だけだ。
俺が生き延びるためには、奴に自分の意思で動いて貰わなければならなかった。
その為には一度永久コンボを解除する必要があるのだが……
「目を潰すだけじゃリスクが高すぎる」
視界を潰しただけでは安全を確保できたとは到底言い難い。
蛇のピット機関の様な熱感知や、音や匂いで此方の位置がバレる可能性は十分ありえた。
当然位置がバレれば俺など瞬殺間違いなしだ。
そう考えると、真面に動けなくなるレベルの致命傷――それこそ竜の意識が混濁するレベルのダメージを与えなければ安心は出来ない。
だが俺の力では、大きな石を使って何発殴ってもそこまでのダメージを与えるのは無理だ。
弱点……
そう、処か明確な弱点があってそこを狙えればいいのだが……
エアデコピンで動きを封じながら竜の周囲を動き回り、何かないかと探す。
だがやはり攻撃が有効そうな場所は見当たらない。
幾らどこでも好きな場所を攻撃できると言っても、どこを攻撃してもダメージが通らないのでは意味がなかった。
「ん?どこでも?」
何処でも好きな場所にダメージを通せる。
そう考えた時、一つの考えに気づいた。
それは手や足を自由に狙える様に、心臓や脳も狙えるのではないかと言う事だ。
「取り敢えず、やってみるか」
落ちている大きな石を拾い上げ、地面に叩きつけた。
狙いは心臓だ。
「が……う……」
それまで此方を睨みつけるだけだった竜が、苦し気な呻き声を上げる。
どうやら
そしてその苦し気な声から、かなりのダメージが通っている事が伺えた。
「おお!やったぞ!」
あからさまにダメージが通った事に、思わずガッツポーズする。
そりゃそうだ。
幾ら弱い攻撃でも、心臓を直接狙われれば流石に巨大な竜でも堪らないだろう。
俺は石を拾い上げ、数度地面に叩きつけた。
勿論すべて竜に対する攻撃だ。
「はぁ……くそったれが……」
重い石を持ち上げて地面に叩きつける。
かなりの重労働に、早々に息が上がってしまう。
しかもそれが思ったほど効いていない事に気づき、汚い言葉が口を吐いた。
叩きつけてダメージを通せば、確かに竜は苦しげに呻き声を上げる。
だがそれだけだ。
心臓を破損出来ている訳ではないので、瞬間的に苦しめる事はできても、致命傷迄持って行くのは相当難しそうだった。
「こうなったら脳か……けど」
俺は深呼吸して息を整える。
脳への攻撃は慎重を期す必要があった。
下手に破損させると、竜が即死しかねない。
奴が自我を失って藻掻き苦しむぐらいが理想なのだが……果たしてうまく出来るだろうか?
根気よく心臓か。
それとも脳か。
迷った末に俺は脳を選択する。
心臓を狙って損壊状態まで持って行くには、俺の体力が持ちそうにないからだ。
即死されるとゲームオーバーではあるが、少しでも可能性のある脳の方を選択する。
それにアイリーンは言っていた。
この竜の力を借りて召喚が行われていたと。
それなら最悪、この竜を道連れにできればこれ以上の犠牲者を出さずに済むはずだ。
……そうでも考えなければ、やってられないぜ。
糞ったれが。
「喰らえ!」
俺は再び石を持ち上げ、叩きつける。
「ひゅご」っと空気の抜ける音が竜の口から洩れ、ドラゴンはその場で倒れてしまう。
「あ……」
やらかしてしまった――いや、違う。
大丈夫だ。
殺してしまったかと思ったが、スキルはまだ発動している。
永久コンボは生き物にしか発動しない。
もしドラゴンが死んだのなら、解除されている筈。
俺は小さな石を片手にドラゴンに近づき、恐る恐るスキルを解除する。
「気絶してるのか……お!?」
ドラゴンの尻尾がゆっくりと丸まって行き、横穴が見えた。
これなら脱出できそうだ。
「じゃあ」
俺はそのまま逃げだそうとはせず、小石を投げて再び永久コンボを発動させた。
悪いがこいつは此処で始末させて貰う事にする。
理由は2つだ。
一つはこいつの力を使って、再び誰かが召喚されるのを防ぐためだ。
あの女王なら、きっと間違いなくやるだろう。
二つ目はレベルを上げる為だった。
ステータスを確認した際、レベルの項目を見つけている。
通常、レベル上げは魔物を倒す事で行われる物だ。
だから……こいつを倒せば大量の経験値を得られる可能性があった。
これから先、よく分からない世界で一人で行動しなければならない。
その為の力を、俺は少しでも欲しかった。
「悪く思うなよ」
まあ此方の事を喰おうとしていたのだ。
逆襲されて殺されても文句は言わんだろう。
いや言うかもしれないけど、苦情は受け付けない。
大きめの石を拾い。
地面に叩きつける。
三度地面に叩きつけた所で竜は息絶え、俺のレベルが爆上がりした。
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