第4話 驚愕

「嘘でしょ!?」


女性が上げた大声に、周囲の人間の視線が集中する。

彼女の名はアイリーン。

ファーレン王国の女王にして、巫女を務める人物だ。


「申し訳ありませんが皆さま、急用が出来ましたので私はこれで」


異世界からの転移者にたいして国や世界、それ以外の細々とした事をアイリーンは魔法のボードを使って説明していた所だったが、彼女は一礼して広場から出て行く。


彼女が目指すは、竜の間と呼ばれる場所だ。

そこには異界竜の封印へとつながるゲートがあり、滝谷竜也はここから竜の住処へと放り込まれている。


だが――そこに本来ある筈のゲートは影も形も残さず消えていた。


「ない……ないわ。そんな…」


それを見てアイリーンは呆然とする。

何故ならゲートは異界竜の力を利用して生み出された物だからだ。

それが消えていると言う事は……


「あり得ない!あり得ないわよ!!」


アイリーンは頭を抱えてかぶりを振るう。

異界竜は強大な力を持つ、地上最強クラスのドラゴンだ。

それが死んだ等と言う馬鹿げた事実を、彼女はすんなりと受け止められなかった。


「何かの間違いよ!ちゃんと確認しないと!!」


竜の間を出たアイリーンは魔法で配下を呼びつける。

直ぐにローブを身に着けた男が2人、彼女の元へと駆け付けた。


「陛下?如何なさいました?」


「どうしたじゃないわ!今すぐ死の山へ調査の兵士を送りなさい!異界竜の生死を確認してくるのよ!!」


「異界竜の生死……ですか?」


女王の命令にぴんと来ないのか、男の1人が戸惑った様に言葉を返す。

だがそれも無理はないだろう。

一国の軍事力に匹敵しかねない強大な竜が死ぬなどと言う事態を、男達は想定していない。

その為生死の確認と言われても、脳の処理が追い付かないのだ。


「私と異界竜との繋がりが消えて!その上ゲートまで消えているのよ!良いからさっさとなさい!!」


そんな男達にアイリーンはヒステリックに命じる。

彼らは悲鳴に近い返事を返し、逃げる様に去って行く。


「くそっ!くそくそくそっ!何だってのよ!一体何があったって言うのよ!!」


魔人対策用に呼び出した転移者の成功はたったの8人――滝谷は彼女の中では失敗扱いなので、カウントされていない。

明かに戦力が足りていない状態だ。

その為異世界からの再召喚はほぼ必須に近かった。


だが異界竜が死んでいた場合、再召喚に必要となる生贄は千人どころでは済まなくなる。

その十倍、いや数十倍の命が必要となるだろう。

流石にそれだけの犠牲を国民から出せば、仮に魔人が何とかなったとしても、アイリーンの立場は確実に危うくなる。


そのため異界竜の安否は、彼女にとってまさに死活問題だった。


「まさかあのゴミ……いえ、流石にないわね」


滝谷竜也を送ってすぐの異変だ。

何か関りがあるかもとアイリーンは一瞬考えるが、だが関係ないと直ぐに判断する。


普通に考えれば、巨大な竜が村人如きに何とか出来るとは思えない。

彼女がそう判断しても無理からぬ事だった。


だがアイリーンは後に知る事になる。

その村人がとんでもないスキルの使い手である事を。

そしてゴミと蔑んだその相手こそ、彼女が真に歓迎せねばならなかった相手であった事を。

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