六
煙を払い除けた刀が、次に払い除けたのは、短剣であった。
「まさか、隼の綾川」
「ご名答。仕事を増やしてくれた礼が、まだだったな」
「丁重にお断りする」
護郎は綾川の部下の攻撃を流れるように躱し、標的に再び攻撃を仕掛ける。しかしまたしても、綾川に阻まれる。さすがに苛立ちを隠せず、唇が震えている。
「数の利だ。諦めろ」
「それも断る」
護郎は懐から、銃を出した。
「主義ではないが、致し方ない」
護郎は素早く部下たちの膝や肩を撃ち、無力化し、的に狙いを定める。
あわや凶弾。綾川は警護対象をかばい、一緒に床に伏す。しかし綾川の肩を、銃弾がえぐる。
「主義に反するわりには、いい腕じゃないか」
「好き嫌いで、仕事は出来ない。役人ならなおさらだろう」
なおも護郎は、狙いをつける。ただし今度は、綾川だ。そして引き金に、人差し指がつく。
「全くだ。だから、こんなことに巻き込まれる」
銃声と、脇差しが銃の方向を変えるのは同時だった。しかし、銃が持ち主の手を離れるには、至らなかった。
綾川は猫の如き身軽さで、再び自身を狙う銃に立ち向かい、またも方向を変えさせた。
しかも今度は、肉体をとらえた。護郎の太ももだ。護郎は顔を歪め、倒れ込む。運良く跳弾の二次被害もない。
綾川は応急処置と拘束を、すぐに終わらせた。
「なんで、あたしが」
「早い話、商い人だからだ。それも貿易商。今日ここに泊まってる理由は何だ」
「親睦会」
「ところが惨劇」
「待って。もしかして」
「だろうと考えている。数倉
薄明かりに照らされ、女の顔の血はより輝く。涙のように滴り落ちては、女の胸元を濡らす。
「ついてきてみりゃ、この有様。さすがに役人殺しはまずいな」
開いた戸から聞こえた声に、女は我に返り、短剣を構える。
「見られてしまってはね」
「一人なら、火あぶりは免れる」
「そうね。でも、見られなかったことにすれば、すべて免れる」
「試してみるかい、それじゃあ」
隻腕の侍は、刀を構える。そしてすぐに踏み込み、女に斬りかかる。しかし女はひらりと躱し、男の側面から絶命の一撃を与えようとした。たが、男はそれを読んでおり、床と平行に向く刃が、女の頬にに傷を与える。
その赤い流れは女の唇に、たどり着いた。頼りない光の中でも、女の
短剣二刀流の見事さは、ただ者ではない。おそらくは、幼少時代よりの時間と経験の賜物だろう。訓練ではこうはならない。
攻防の中で、男は背中に傷をつけられ、ついに膝をつく。
勝機を逃すはずもなく、女は男に仕掛ける。男は何とか一本短剣を弾くものの、逆に自身の刀を弾かれた。そして流れで蹴り飛ばされ、天井を眺めるはめになる。龍と目が合ったのも束の間、短剣を両手で握り突き刺そうとする女の、重みを感じる。それは増していく。男は片手で必死に止める。
男の胸と短剣が、じわりと引き合っている。
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