第3話

「いらっしゃい、ま……」

 ハシノキ商店街でも屈指の人気店である、おしゃれなタピオカ店。そのカウンター前にのっそり立った、ブキミ可愛いピンクのうさぎを見て、ハンチングにエプロン姿の店員さんが笑顔を引きつらせた。


 つーちゃんの、次の更新内容はこうだった。


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■【あーちゃんへ私信です】復活の方法・その2


 あーちゃん、商店街に行ったかな?

 では復活の方法・その2でーす!


 その1 タピオカ専門店「チャティ=パール」に行ってください。

 その2 ドリンクを買って、イートインで飲みましょう♪ あっ、あたしの好みは『濃厚まろやか抹茶ラテ』だけど、そのへんはおまかせです。


 簡単でしょ☆ よろしくね。

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 ――ちょっとあれ、何だと思う?

 ――わかんない。ユーチューバーじゃないの?


 ざわざわ、ざわざわ――店内のささやき声と視線が、さざ波のように押し寄せてくる。

 痛い。本当に痛みを感じるくらい、注目が痛い。

 つーちゃん、これは何の罰ゲームなんですか。


「何になさいますか」


 数秒で立ち直った店員さんが、にこやかに話しかけてくる。


「……の、『濃厚まろやか抹茶ラテ』で……」

「はい、かしこまりました~」


 すごい、動揺が消えてる。プロだ。あたしは明るすぎるくらい明るい笑顔――貼りついたような笑顔とも言うが――の店員さんにうさぎ頭をぺこりとして、ドリンクを受け取った。


 着ぐるみのままの飲食は――うん、まあ可能。ストローがあるからいける。つーちゃんのお気に入りだという、抹茶ミルクのやわらかな甘みは、緊張しきっていた気持ちをちょっとだけほぐしてくれた。


 だけど、あたしはいったい何をやっているんだろう? こんなとこで、変なうさぎになって、タスキ掛けてテーブルについて。これって本当に、つーちゃん復活に必要なんだろうか?


 考えながらぼんやりドリンクを吸っていたら、何を間違ったのかタピオカが気道のほうに飛び込んできた。ごほがはげへ、せき込み始めたら、こっちに注目していたらしい店内の人たちが、何の遠慮もなく爆笑し始めた。ちょっとまってよ、あたし苦しんでるんですけど。ひょっとして外側のうさぎが笑っているせいで、あたしがやることなすこと全部、ギャグにしか見えないのか?

 なんかもう、涙が出てきた。つーちゃん、もう一度聞くけど、ほんとにほんとに、ほんとーに、これは復活に必要なのですかー……?


 ――ピコン。


 あ、更新。


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■【あーちゃんへ私信です】復活の方法・その3


 あーちゃん、タピオカ楽しんでる?

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「楽しんでないっっ!!」

 思わず叫んだら、みんながまたいっせいにこっちを向いた。

 いけない、いけない、あたしは縮こまる。

 続き続き。


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 せっかくゆっくりしているのに、ごめんね。

 実は、ちょっとこっちで困ったことがありました。今すぐ次の対応をしてもらわないと、あたし、復活できなくなっちゃうかもしれませんっ!!!

 でも、次のでやることは最後です。やることも簡単です。

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 ふうん……どんなのだろ。


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 ヒラサカ公園に行ってください。近いよね。

 そこで野外ステージに上がって、ハンドメガホンをつかって、なんでもいいから、なんかを思いっきり叫んでください! それで、ミッションこんぷりーとでーーーすっ♪♪♪

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「……」

 末尾の♪、凶悪にしか見えないんですが。

 ステージで叫べと。

 まだ海に向かってバカヤローの方がましなような。

 

 なんかもう、こんなの絶対ウソだよね……確かに文章は、つーちゃんが書いているとしか思えないけど。でも、こんなふざけたことばかりして、それで復活だなんて、やっぱりありえるわけがない。もう帰ろうか。

 あたしは逃げかけた。でも、その次の文章が、そんなあたしをぐっと追いかけてきた。


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 あーちゃん急いで。あと10分!

 それで儀式完了です。

 そうしたら、あたしは完全復活です!


 あーちゃん、がんばって。あたしはあーちゃんを信じてる。

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「あたしも、信じていいんだよね……?」

 ゆっくりと立ち上がりながら、あたしは画面に向かって呟いた。

「全部できたら、つーちゃん、本当に、帰ってきてくれるんだよね?」


 ――それで儀式完了です。そうしたら、あたしは完全復活です!


「わかった。行く」

 あたしは走り始めた。

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