第2話

 祝日だけど、中学校は開いていた。前に、「いっつも学校が開いてて、部活が休みになんないの。年末年始以外、全部練習だよー…」と運動部の子がぼやいていたけど、本当だったらしい。うちの学校、やたら部活に熱心なんだよね。

 問題は演劇部の部室に入れるかどうかだなと思っていたら、体育館から「あ、え、い、う、え、お、あ、おー」という発声が響いてきた。この声出し、間違いなく演劇部だ。去年は休みだったのに今年は活動? ということは、コンクールで上位に入って、次の大会に行くのかな。幽霊部員のあたしの胸が、少しだけうずいた。

 ともあれ、部が活動中なら、カギは開いていると見た。役者はそうでもないけど、裏方の部員は活動中に部室に出入りする機会が多いとかで、基本的に施錠しないことになっている。「方法その1」は簡単にクリアできそうだ。

 あたしは体育館に沿って外を歩いて、部室棟に続く入り口をくぐり、階段を降りて行った。部室棟なんていうと立派だけど、体育館にくっついて造られている半地下の何部屋かを、室内競技の運動部にあてがっただけの場所。演劇部の部室がここにあるのは異質なんだけど、まあ活動場所は舞台上だから、理屈には合っている。

 薄暗い廊下を通り、部室の戸をそっと開けたところで、――ピコン――スマホが鳴った。

 来た! ブログの更新通知!

 あたしはハイスピードで画面をタップする。


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■【あーちゃんへ私信です】復活の方法・その1のつづき


 さっきの投稿から30分です!

 あーちゃん、きっと部室にいるよね?

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「いるよ」

 あたしは声に出して答える。そして続きを目で追う。次の文――


「……はい?」


 あたしは文章を二度見した。


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 では、儀式の衣装を着てください。


 その1 うさぎの着ぐるみ(ピンクのやつ)

 その2 「本日の主役」のタスキ     

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 ……。き、き、着ぐるみにタスキ……!?


 なんでやねん! ――と、なんちゃって関西弁で叫ぶのだけはかろうじてこらえたけど、だけど頭の中では、お気に入りの芸人さんの声で再生された「なんでやねん」が、ぐるぐると回りつづけた。

 いや、なにそれ、うさぎの着ぐるみって。あと「本日の主役」ってなによ。そりゃまあ、確かに今日が誕生日だから、ある意味主役かもしんないけど……て、そうじゃなーいっ!!

「つーちゃん! これはいったいどういう指示――」

 スマホに向かって叫びかけて、あ、電話じゃなかったと気づく。

 答えるようなつーちゃんの文章が、その先に続いていた。


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 わかります。絶対、なんじゃこれって思ってるよね。

 けど、ごめんなさい、こちらはブログですので、質問にはお答えできません☆

 ほんとごめんね。でも、あたしを信じてね。

 ところで、あーちゃん、着ましたか~?

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 いやいや、まだです。

 あたしは部室を見回した。信じてねと書かれてしまうと、信じなきゃと思ってしまう。

 色と笑顔でアピールしてくるピンクのうさぎは、すぐ見つかった。「本日の主役」も、小道具をがっちゃり放り込んだ箱を引っかき回したら、すぐ出てきた。そうだ、このふたつは、確か「不思議の国のアリス」をギャグアレンジした舞台で使ったんだ。人を馬鹿にしたような、ブキミ可愛い笑顔のうさぎは、アリスを不思議の国に誘い込むあのうさぎ。「本日の主役」タスキは敵役のトランプの女王が身に着けたやつ。タスキを掛けたら面白いと提案したのはつーちゃんだった。めちゃくちゃ観客にウケて、先輩にもほめられていたっけ。

 あたしは着ぐるみの胴体を身に着けた。ふうん、これはなかなか優れものだ。目立たないところをメッシュにして空気が通るようにしてあるし、指先を外に出せるようになっているので、着たままスマホも使える。暑さとか、小道具の持ちやすさとかいろいろ考えて、裏方サイドが頑張ったんだろうな。


 あたしはタスキをかけ、最後にうさぎの笑顔を顔にまとい、誰も見ていないけど、腰に手を当てて胸を張った。


「さあ、着ましたよ! どうよ、これで」


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 はい、よくできましたー。さすがあーちゃん♪


 では、そのままこっそり学校を出て、ハシノキ商店街へゴー!

 あっ、いっこ忘れた、小道具として、ハンドメガホンを持ってってね。


 復活の方法・その2につづく! 30分後を待て。

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 ……え。

 あの、これで外に出るの? 商店街に行くの? このまま?

 鬼ミッションだと思うのは、あたしだけですか。


「つーちゃん……」

 あたしはスマホを握りしめ、画面に向かって、問いかけた。


 ねえ。これはつーちゃん復活のため、なんだよね?

 本当に本当に、復活のためなんだよね!?


 目に留まった文字は『あたしを信じてね』。


 ……しょうがない。やるしかない。信じられないけど。

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