空に走る

岡本紗矢子

第1話

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2**0-11-3

カテゴリ:闘病記録


■誕生日ですっ


 11月3日。文化の日☆

 つーはきょう、14歳になりました。ぱんぱかぱーん。みんなお祝いしてくださーい!


 今日は外泊で、家にいるので、親友のあーちゃんと一緒に、誕生日をお祝いしました。あーちゃんも、誕生日おめでとー。


 あーちゃんは、小学校のときからの仲良しで、親友です♪

 誕生日をふたりでお祝いするのは、毎年恒例☆ いつもぜったいお休みだし(祝日生まれ~(*´▽`*))

 まあ、つってもコンビニでスイーツ買って、乾杯するだけなんだけど。


 今年は、あたしは買いに行けないので、あーちゃんがロールケーキを買ってきてくれました。あたしの好きな○ーソンのやつです。

 最近あんまり食欲なかったんだけど、なぜかこれだけはあっというまに完食!

 咳もでなくて、奇跡みたいな時間☆

 たくさんしゃべって、めっちゃ元気になりました~~あーちゃん、ありがとー。


 でもね、明日は病院に戻って、また抗がん剤なんだよね。。。はぁ。やだなー。しょうがないけど。

 明日もがんばるぞ☆

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 11月3日。文化の日。

 「あーちゃん」ことあたし・葵は、「つーの闘病記☆」の去年の投稿を、何度も何度も読み返していた。

 毎年一緒に誕生日をお祝いしてきた、つーちゃん――つかさちゃん。

 だけど、今年は一緒じゃない。

 今年の誕生日、15歳になったのはあたしだけ。

 つーちゃんは、ずっとずっと14歳。あたしが16になっても17になっても、いつまでも14歳なんだ。


**


 つーちゃんとは、小4のとき、初めて同じクラスになった。隣の席になったから話しかけてみたら、共通点がいっぱいで、すぐ仲良くなった。本が好きで作文が得意なこと、お笑いが好きなこと。好きな芸人さんもよく見る動画やアニメも同じで、おまけに誕生日も同じ! ふたりともびっくりした。

 それからあたしたちは、ずっと一緒だった。学校でも一緒に行動したし、遊ぶのもいつも一緒。係や委員会活動をするときも同じのを選んだ。

 中学に入り、部活を選ぶときも、あたしたちはふたりで相談して部を決めた。「運動部は?」「なし!」と一致したあたしたちが入部したのは、演劇部。本当はふたりとも文芸部に入りたかったんだけど、そもそも部自体が存在しなくて、ちーん。撃沈。「じゃあ、脚本を書ける可能性に期待だー!」とノリ(というかヤケ)で選んでの入部だった。

 幸い、あたしとつーちゃんは、それぞれ演劇部に面白さをみつけた。役を演じるのが面白くなってきたあたしは役者のトレーニング、脚本で舞台に関わりたいつーちゃんは裏方の勉強。同じ部活にいながら、これまで一緒だったふたりの道は初めてちょっぴり枝分かれしたんだけど、そうなったらなったで、あたしたちには新しい夢ができた。

「あたしが脚本ほんを書いて、あーちゃんがそれを演る! それができたらいいなあーと思うんだ」

 中2の9月、初めての文化祭公演を経験したあとぐらいから、つーちゃんは、たびたびそんなことを口にするようになった。

 この頃のふたりの遊びといえば、つーちゃんかあたし、どっちかの部屋でひたすらおしゃべりしたり、マンガを読んだり。今日はつーちゃんちだ。あたしは遠慮なしにねっころがって、おやつのポテチを口の中でバリバリさせていた。

「いいねー。あたしもつーちゃんのホン、やりたい。役は薄幸の美少女がいいなあ」

「おおー、難しい設定きた。どういうコメディにしようかなあ」

「……て、コメディ!? 薄幸の美少女でコメディ!?」

「そうだよ。あたし、笑える脚本が書きたいんだもん」

 やだよなんでそうなるのよだったらつーちゃんが演じなよ、ダメダメあたしは脚本オンリー、じゃあコメディやめて感動ストーリーにしてよ、えー好みじゃなーい――わあわあぎゃあぎゃあ、そんなふうに騒ぎまくったのを覚えてる。

 でも、それからしばらくして、つーちゃんは入院した。足が痛くなったとかで、ケガしたのかなと思っていたら、やがてつーちゃんから、「闘病ブログ始めました」というLINEが来た。

『ちょっとめんどくさい病気になっちゃって、1年くらい入院しなきゃいけないんだって。しょうじき、グチりたいこといっぱいありすぎなんだけど、そんなのSNSで書いたらみんなひくし。。。だから、こっそりブログ作っちゃった。教えるのはあーちゃんだけ! 見にきてね』

 “めんどくさい病気”の名前は、骨肉腫、だったと思う。

 中3の夏休みに、つーちゃんは病院で亡くなった。


**


 つーちゃんがいなくなってから、あたしはずっと、ひとりでこの世にいるような気分でいる。学校には行っているけどなぜか演劇部には行けなくなって、すっかり幽霊部員(変なの、つーちゃんじゃなくて、あたしが幽霊になるなんて)。そして今、ひとりで、15歳の誕生日を過ごしている。たったひとり。

 去年の誕生日のブログ。日付は同じ。だけど、「つーは14歳になりました」の数字だけは、何回読んでも、変わることはない。


 ごめんね、つーちゃん。あたしは15歳――


 何かが心の底からこみあげてきて、あたしを揺さぶる感覚がある。

 あ、これだめだ、やばいやつだ……て思った。溺れたら、わけがわかんなくなるやつだ。


 ブログから離れよう。見てちゃダメだ。


 あたしは急いでブラウザを閉じ、ベッドの上にスマホを投げ出した。そのまま部屋の外に出ようとする――が、ちょうどそのとき、スマホがピコン、といったのが聞こえた。

 LINE受信のポップアップが上がっている。誰か知らないけどあとで見ればいいや――と思いかけたんだけど、次の瞬間あたしはベッドに走り戻り、がばっと画面に食いついていた。

 ポップアップにこうあったからだ。


『更新通知 登録しているブログが更新されました』


 ブログ? 更新?

 あたしがおっかけてたブログなんて、つーちゃんの闘病ブログしかないんだけど。


 あたしは指でスマホをぶっ叩いた。つーちゃんのブログにもう一度アクセスする。

「うそ……」

 信じられなかった。

 そこには、新しい記事が上がっていた。


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2**1-5-3

カテゴリ:闘病記録


■【あーちゃんへ私信です】あたし復活しちゃうかも!?


 11月3日。文化の日☆


 あーちゃん、お元気ですか?

 びっくりしないでね。この文章は、なんとなんと、天国から書いています♪

 つーからの緊・急・私・信~っ!


 あーちゃん。すごいことが起きました。

 神様からの、とっておきの誕生日プレゼント☆

 あたし、生き返ることができるみたい!!

 

 でもね、それには、復活の儀式が必要なんだって。

 それと、その儀式は、あたしと同じ誕生日の人しかできないんだって。

 だから、あーちゃんがたよりです。

 おねがい。あーちゃん。協力してくださいっっ

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 儀式? 儀式って? これ本当? つーちゃんが生き返るって、そんなこと、ある? ブログでもあるよね、乗っ取りとか――

 ぐるぐる考えながら固まっていると、またスマホがピコンといった。

 次の記事が上がった。


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■【あーちゃんへ私信です】復活の方法・その1


 あーちゃん、おどかしてごめんね。きっとびっくりしてるよね。

 でもでも、これはほんとにほんとに、ほんとのことなんです。

 見てくれてるかな。見ててほしい! だって、この儀式は今日中にやってもらわないと効果がないんだもん。

 いま、どうしても無理だったらいいんだ。でも、もし今大丈夫だったら、あたしを信じて、儀式をやってください。お願いです。


 ではまず、方法その1~。

 今から、演劇部の部室に行ってください!


 あー、一気に全部書きたいけど無理みたいだよぉ。詳しく説明できないけど、天国からあくせすできる時間には限りが。。。

 つづきは30分後☆ できればそれまでには、学校についていてね。

 よろしくー。

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 30分後。

 あたしは思わず、ベッドの頭のところに置いている時計を見た。そして、時計を見るという自分の行動で、気づいた。「あたし、やる気だ」と。

 ウソかほんとかわからない。ううん、99パー、ウソか幻だ。こんなこと、あるわけない。

 でも、もし……もし本当に、つーちゃんに、会えるなら?


 あたしはきりっと唇を引き結んだ。

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