第7話 アカネ
産まれてから13年間ずっと名前は無く、雑種と呼ばれていたアカネ。
雑種が名前であると認識していたものさえいたくらいだ。
父はヴァンパイアとサキュバスのハーフ魔族、母はエルフとヒューマンのハーフエルフである。
4つの種族の血を持つクォーターのアカネは雑種と呼ばれた。
両親とも奴隷であり、奴隷の間に出来たアカネも産まれながらの奴隷となってしまった。
すぐに親から取り上げられ、子供のいない家庭に引き取られたが、数年後に本当の子供を授かった育ての親はアカネが邪魔になった。
子供から召使に落とされたアカネは虐待を受け、死にかけた時に捨てられた。
虐待の後遺症から記憶が曖昧になり、当時の名前が思い出せない。
捨てられたところをまた奴隷商に拾われ、奴隷に戻った。
次の主人のところでも虐待は続いた。
それにも耐えたアカネだが、旦那が事故死したきっかけで戻される。
2度戻ってきたアカネが疫病神に思えた奴隷商は、別の奴隷商にアカネを売りつけた。
買った奴隷商が自分の家に戻る途中に魔物に襲われた。
その際に右手を失ったが命は落とさなかった。
しかし、襲われた時のショックで口が利けなくなった。
厄介者となったアカネはさらに別の奴隷商に安く売られた。
次の奴隷商が王都に向けて移動中にまた魔物に襲われてしまったのだ。
そこに俺が現れ、アカネのみが助かり今に至る。
アカネは幾度も辛い思いを重ねてきた。
まだ13歳ではあるが身体に残ったキズ、心のキズも並みの人間には耐えきれないものであろう。
アカネを俺が幸せにすると誓った。
~~ アカネ視点 ~~
また魔物に襲われた。
今度こそ死ねるだろうか。
するとそこに男の人が助けにきてくれた。
彼の強さは凄まじかった。
あっという間に取り囲んでいたウルフを蹴散らした。
また死ねなかった。
彼が声をかけてくれた。
「ケガは無いか?」
と私ごときに優しく声をかけてくれたのだ。
大丈夫ですと言いたかったが声が出なかった。
口が利けないのかと聞かれ、頷くしかできなかった。
私の無い右手を見て悲しそうな顔をした。
今まで会った大人とは違う感じがした。
一緒に来ないかと言ってくれた。
飛び跳ねたいくらいに嬉しかった。
それに食べ物も与えてくれた。
何日ぶりの食べ物だろうか。
あまりのおいしさに止まらなくなってしまった。
恥ずかしい。
液体の入った小瓶を渡された。
それを飲むとさっきできた切り傷が消えていった。
古傷には効かないようだ。
そして、彼と一緒に町に向けて歩き出した。
彼は何かブツブツ言いながら悩んでいる風だった。
邪魔をしてはいけないと思い、大人しく隣を歩いた。
すると急に見つめられ、身体が光り、汚れた衣服や体がきれいになった。
驚いているとまた急に抱えられ、ものすごいスピードで走り出した。
酔った。吐きそうだ。
折角食べた食べ物を戻さないように必死に耐えた。
また急に止まると、大丈夫か?と聞かれた。
大丈夫なわけないだろ!と抗議したかったが声がでなかった。
村に着いたようだ。
なぜか服を買ってくれるという。
奴隷の私にはこのボロ布で十分だと思うのだが。
赤い木の実を買ってくれた。
甘酸っぱくとてもおいしかった。
おかげですっきりした。
ギルドとかいうところに連れていかれた。
服を買うんじゃなかったの?と思ったが付き合うことにした。
奥の広い部屋に行くと、どこからかどんどん魔物の死体が出てきた。
どこに隠していたのよ!と驚いた。
なんか断られたようでまたしまい始めた彼だが、一体どこに仕舞っているのだろうか。
それでも金貨をいっぱいもらったみたいだ。
そのまま服屋に移動した。
店員に進められるままに何着か服を買った。
靴も下着も買った。
奴隷の私に新品の服を買い与えるのが不思議でたまらなかった。
外に出るともう夜になっていた。
不意に小脇に抱えられ、目の前の景色が急に変わった。
驚いているうちに彼が小屋のドアに触れると頭の中に声が響いた。
『地球の環境に合わせた身体になりました』
『異世界言語、鑑定、インベントリ、成長促進を獲得しました』
『異世界ゲートの使用権限を獲得しました』
何? 誰なの?
え? 右手がある??
握ったり、開いたりしてみる。
自分の意志で動いている。
やはり私の右手のようだ。
あれ? しゃべれそうだ。
お礼を言わなくっちゃ。
「助けていただき本当にありがとうございました。あなたは神様でしょうか?」
神様では無かった。
彼は佐藤健太というらしい。
私の名前も聞かれたが、私には名が無い。
そうだ彼に着けてもらおう。
アカネという名前をもらった。
彼は今まで会った大人とは全然違う。
私を大切にしてくれる。思いやってくれる。
彼に恩返しがしたい。
そうだ、私の全てを捧げよう。
彼の奴隷になろう。
彼との生活は驚くことばかりだった。
食べ物もそうだが、周囲にある道具も見たことのないものばかりだ。
蛇口とかいうところをひねるだけで水が得られるのだ。
なんだこの世界は。
ここは私が住んでる世界とは違うらしい。
信じられないが、そこら中にある道具が別世界であることを物語っている。
驚くことばかりだが彼との生活は刺激的で楽しい。
今まで生きてきた中で一番幸せを感じている。
一生彼に尽くしていくと誓う。
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