epi 終

 庭に差し込む明かりで、その身体が輝いているようだ。

 この美しい白さがゆきみさんとダブる。

 とても白い肌——。

 力強いあの姿が思い出された。


『そんなに優しいのに?』


 あの、可愛らしい声が頭の中で再生される。


 頬に触れた、ひんやりとした手——。


『わたしがここにいるのは、君の優しさがあったからだよ』


 おでこの‥…当たった感触——。


 優しさは、とても強い力になるんだよ。


 涙があふれてくる。


「あ、ああ、ゆき、み、さん」


 どれも、全部、嘘なんかじゃなかった。


「うぐっ、ふっ、ゆきみ、さん……」


 ゆきみさん、ゆきみさん、ゆきみさん。

 涙が止まらない——。


 おそらく、この先ゆきみさんと会うことは二度とないんだろう。『またね』と言ったゆきみさんの姿が頭から離れない。『またね』ってこういうこと? こんなのないよ。僕はまだ、何も伝えていない。『ありがとう』と、お礼すらも言っていない。


 もっと話したかったことがあったはずだ。



 他の動物に掘り返されたりしないように、深く掘った穴に、ユキミを埋葬した。


「ユキミのために、泣いてくれてありがとう。宮守くんのおかげで埋葬することも出来たし、きっと、ユキミも喜んでるよ」


 でも、僕は首を振った。


「そうだと、良いですけれど、僕は何にもしていないんです。ユキミ……信じられないと思いますけど、ゆきみさんに、ただ、助けてもらっただけなんです。お礼すら言えてません」


「『それで良いんじゃないかにゃ』きっと、ユキミはそう言うと思うよ。あの子は君の優しさに応えただけ。お礼なんて求めていないよ」


「え?」


「それに、宮守くんの言っていたこと、本当だったんだ、て今はもう信じているよ」


「本当ですか? ……どうして?」


「さっき部屋に戻った時、小学生の頃書いてた、ユキミ成長記が机の上に置いてあったの。えんぴつと一緒に。私、ユキミの日記をつけてたこと、すっかり忘れてたよ。どこにあったんだろう? それも覚えてないくらい」


「ゆきみさんが、それを?」


 松乃葉先輩は軽くうなずいて、「最後のページに汚い字で、『優しくしてくれてありがとう』って書いてあった」そう小さく言った後に、また話しを続けた。


「ユキミ以外にいないと思うんだよね。ベッドには長袖のワイシャツと、冬服のスカートがたたんであったし。もうすぐ衣替えだから用意はしていたけど、きっとタンスから出したんだろうね。本当、綺麗にたたんであった。……不思議」


 松乃葉先輩は少し上を向いて、


「あーー、私も会いたかったな。ユキミに。白いワンピースを着たユキミに。ん? そのワンピースは自前だったのかな?」


 真っ赤に腫れた目は、少し寂しげだったけれど、そう言って肩を上下させたあと、僕を見て笑った。


「そうだったんですか」


 良かった——。

 信じてくれる人がいて——。

 ゆきみさんが幻ではなくて——。


 ゆきみさんに誓うように、想う——。

 これからも僕は生きていく。

 ゆきみさんの言っていた、やさしさのつよさが僕の勇気になるはずだ——と。


 そして、僕は駐車場で見た、白と黒の二匹の子猫のことを松乃葉先輩に話した。


「もしかしたら、ユキミの子供かな?」


 明日二人で見に行くことになった。



         おしまい


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ヤサシサノツヨサ FUJIHIROSHI @FUJIHIROSI

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