epi 6

 最終のチャイムが鳴った。

 最後まで、あの三人は目も合わせてこなかった。

 僕は帰り支度をして急いで教室を出た。


 三年二組の教室の前、やはりゆきみさんは見当たらなかった。


「お、さっきの二年くん。ゆーみんに会った? 来てたでしょ」


 昼休みに会った女生徒だ。


「いえ、まだ……」


 そう言うと、女生徒は教室を覗き込み「いるじゃん。おーい、ゆーみん。こっちこっち」と言って手招きをした。


「ほら、さっき言った二年くんだよ」


 ゆきみさんは居たようだ。気づかなかった。とりあえず胸をなでおろした——でも、


「私に何か用? 君、誰?」


 教室から出て来たのは別人だった。


「え? ゆーみんの知り合いじゃないの?」と女生徒は首を傾げた。


「あれ? あ、あの、ゆ、松乃葉先輩を……」


 肩にかかるストレートの黒髪をパッと右手ではらい、左手を腰に当て、威圧的な態度で僕の前に立つ。大きな目は優しそうだが、


「このクラスに、他に松乃葉はいないわよ」


 と言う。きつめの言葉に気圧されてしまう。友達の女生徒が「あー、探してる子は松乃葉何ちゃん? ゆーみんは、由未奈ゆみなだよ。クラスが違うんじゃないかな?」とフォローするように言ってくれた。


「でも確かに、三年二組って、ゆきみさんが……いえ、すいません、間違えたかもしれません。ごめんなさい。失礼します」


 だめだ、意味がわからない、とにかく逃げよう。


「待って!」


 その場を離れようとした僕は左手を掴まれた。


「君、今ユキミって言った?」


 とっさに僕は、ゆきみさんを知っているのか、逆に聞き返した。

 言うなり、彼女は顔色を変えた。「ごめん、亜美あみ! 先に帰って。また明日ね」と友達に伝えると、僕の腕を引っ張り歩き出した。


 廊下の端まで連れて行かれて、問いただされる。


「『ユキミさん』って何? どうしてユキミを知っているの?」


 彼女の表情は真剣だ。


「あの……昨日の夜——」


 言えないことは言わなかったが、いじめのこと、老猫、ゆきみさんのことはほぼ正確に話した。昼休みでのことも。


「君さ——」


 ふざけているの? とでも言われそうな勢いだったけど、彼女はそれ以上言わなかった。

 なぜ詰め寄られているのかも分からないけど、彼女は思案顔だった。しばらくの沈黙のあと彼女は言った「いま、話の中に出てきたその駐車場に連れて行ってくれない?」


 僕たちはそのまま老猫を見つけた駐車場に向かった。


 途中、何度かゆきみさんのことを聞いたが、彼女が答えることはなかった。

 

 十月、日が落ちるのも早い。

 すっかり暗くなったファミリーレストラン第二駐車場に、僕たちは着いた。

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