epi 4
首もとに赤いリボンを付けた長袖のワイシャツにスカート。普通の制服姿の松乃葉先輩に昨夜のような神秘さは感じられなかった。
「何ですか? 突然。僕ら遊んでるだけですけど」すぐに佐々岡が間に入ってごまかした。その態度から、校章の色で、相手が上級生だと気づいたみたいだ。
体育館裏は林に囲まれていて狭い。
松乃葉先輩の方からでは、正面に佐々岡と歩園が立っているため、そのすぐ後ろでかがんでいる僕と真智田はほぼ見えなかったはず。
ごまかし切れると思ったのだろう、両手を開いて松乃葉先輩の正面に立っている佐々岡の背中は自信ありげだった。
バチンッッ!
大きな乾いた音が響くと同時に、佐々岡はぶっ飛んだ。体育館の壁までぶっ飛んで転げ、事態が飲み込めず、呆然と右頬を押さえている。
松乃葉先輩の左手が佐々岡を張り飛ばしたのを見ていた歩園は微動だにしない。きっと、驚いて目を丸くしているのかもしれない。僕自身がそうであるように。
「間に合って良かったよ。わたしも、その遊びにまぜて欲しかったんだよにゃあ」
言って、歩園に迫る松乃葉先輩の顔が一瞬見えた。その妖しい笑顔に、僕は息を呑んだ。
「ちょ、ちょっと待って、待ってくださっぐぶうっっ」
歩園がうめき声を発して体をくの字に曲げ、膝をついた。それを見下ろす松乃葉先輩の表情は背筋が凍るほど怖かった。
もしかして蹴った? ここからでは歩園の表情は見えないけれど、きっと苦しさに歪んでいるに違いなかった。
顎を蹴り上げられた歩園は後ろに飛び、僕と真智田の間を割り入るようにして倒れ込んできた。
真智田はこの事態を理解できていないようだったけど、あっという間に二人が松乃葉先輩にのされたのは理解できているようで、
「あ、あんた、何だよ? 何なんだよ? こんな事して、ただじゃ済まないぞ」
立ち上がり、後ずさりしながら言っている。
松乃葉先輩が凄む。あの天使かと思った容姿と、同様に可愛らしい声からは想像できないほどに。
「わかってるじゃねーかお前! わたしの大事な友達の宮守を傷つけて、ただで済むわけにゃいよにゃあ」
「友達? あんたが、こいつの?」
「わたしだけじゃねーよ。今後、宮守に何かあったら、わたしの友達もおめーらをボロクズのように引っかきまくるからにゃあ!」
……言葉通りただでは済まなかった。
ボコボコにされた三人は謝罪し、あまりの恐怖で泣きながら逃げていった。
そんな三人の後ろ姿から視線を僕に移して、松乃葉先輩は笑った。
朗らかに、可愛らしい二本の八重歯をのぞかせて言う。
「こんなもんで良いかにゃ」
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