epi 2
頭上の共用廊下の
本当に白かった—— 。
しかも、白いワンピースを着ているせいか全身が輝いているようにも見え、それとは対照的な真っ黒なベリーショートの髪の毛が際立っている。つりあがった大きな黒目が凛々しくて——もしかしたら天使なんじゃないかと目を疑ったけれど、そうじゃないことはすぐに分かった。
「いや、分かってにゃいみたいだから教えてやるけど、そんにゃところから落ちたら怪我じゃ済まにゃいぞ。ほら、危にゃいから早く降りて」
それは分かってる。そのためにここに来たのだから。
それよりも、にゃ? 『にゃ』って言ってる? ふざけてるのかとも思ったけれど、その表情は真剣で、そんな風には見えなかった。どこかの方言なんだろうか? 漫画や小説なら
「これ、君のだよね」
階段を下りながらそう言って差し出したのは、僕がさっき瀕死の老猫に掛けたはずの制服だった。
とにかく、とりあえず、僕は腰壁から下りて上着を受け取った。
「よーし、よーし降りたにゃ。まったく、命を粗末にすんにゃよ。余計、寿命が縮まるっつーの」
……よく分からないけれど、関係ないでしょう、そう思ったけれど、言い出せずに僕はうつむいた。彼女の顔をまともに見れなかった。
「駐車場を通りかかった時に、ちょうどにゃにかに掛けるようにして、その服を置いた君を見かけてね。何をしてるのかにゃ、と確かめたら、その下から出て来たのがうちの子だったもんだから慌てて追いかけて来たわけ。関係にゃいことはにゃい」
うちの子? あの老猫の飼い主?
「そうそう、もう老衰でね。二日前に突然いにゃくにゃっちゃって毎日探していたのよ。だからありがとう。おかげで見つけられたわ」
彼女は一呼吸おいて、「わたしは
彼女が絶えず話しかけてくるものだから、返事をする間もない。
「昼休みに入ったらすぐね! お礼をしたいから必ず! にゃ」
僕は考える暇もなくうなづいていた。
一通り話し終えた彼女は満足げに「もう戻らにゃきゃ」と言って僕の横をすり抜けて階段を下りて行った。
……いったい、なんだったんだろう。
「あー三年二組ね。三年二組! 約束だからね」
と階下から声が聞こえて思わずドキッとしたけれど、なんだか笑いが込み上げてきた。
もう死ぬ気なんてなくなっていたから。
単純な自分に呆れて。
松乃葉さん、一コ先輩か。
あれ? そういえば、結局、僕は彼女と一言も言葉を交わしていなかった。
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