第31話

炎が広がる。真っ赤に大地を彩る。そして空には黒煙。


 敵も味方も、そこから逃げるのに必死だ。ソルモールのアルコーンが、動力部周りを相当頑丈にしているのは、これを防ぐためだ。


 多少ならば問題はないだろうが、複数の源泉から大量の油が集まれば、当然大惨事だ。現に戦場は爆発だらけだ。


『アルヴィア将軍!』

「ブレトン、急げ!まだ来るかもしれん!」

『急いでいますが…』

「…奇襲か?」

『ええ。どうやら複数の部隊を潜伏させていたようです!』

「こういう手を使ってくるなら、敵の指揮官はイフィアか…。厄介な女だ」

「とにかく生き残れ。補給部隊が来るまではな」

『もし来なかったら…?』

「もとよりここに対して用はない。最悪、ギュレアにまた戻ればいい」

「ウェルギスの連中に、あそこまで追撃する余裕などないだろう」

「だが、ナシリアの兵を減らすわけにはいかん。無駄に戦うな。奴らの、イフィアの思うつぼだ」


 指揮官たちが集うテントの幕を開け、アラステアはイフィアたちに挨拶するよりも早く、兜を脱ぎ捨てた。

「アラステア…!その血は…」

 額や頬から、赤い流れが出来ている。

「大丈夫です。それより…」

「いや、しかし、殿下!先に傷を…」

「ポアス。あなたの役目をお忘れなく。同志の命を預かっているのですよ」

 イフィアは少し長い呼吸の後、一瞬目を閉じ、再び開けると、アラステアを見た。

「敵は敗走しています。おそらく、拠点に戻るのでしょうけど…」

「攻勢に転じられては困ります」

「何か策を?」

「奇襲部隊と偽の補給部隊を送りました」

「偽の?」

「ええ。彼らの物資を断つために」

「現段階では、利は私たちにあります。より確実な勝利のために、アラステア」

「あなたは、兄さんと一緒に部隊の再編と前線指揮をお願いします」

「ええ、もちろんです、イフィア」

 一切緩みのない顔で、アラステアは己の腹、ちょうどへそのところに握った拳をつけた。これは、覚悟を決めてやるといった意味の、ウェルギスのジェスチャーである。


 ポアスは黙々と地図と資料の確認に勤しむイフィアに、抗議の言葉を出す。

「いいんですか?アラステア様は、負傷しておられる。あの方は…!」

「言って止められる人じゃないの」

「私だって行ってほしくはないけど、戦力を考えると、行ってもらうしか…」

 

 鳥の群れの鳴き声が、聞こえていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る