第30話
突き立てられた切っ先を、金属の両手がかろうじて、本体への進攻を止めている。だがその防衛機能は、完全とは言い難い。ヘレスの剣の切れ味が、ダメージ蓄積しているベルダーの防御力をほんの僅かではあるが、上回っている。このままでは指の関節が持たないだろうと考えたアラステアは、思い切ってその突き立てられた剣ごとヘレスを横に投げるように、飛ばした。
それほど力いっぱいやったわけではないからか、ヘレスはそれほど大げさに飛ばされず、軽やかに受け身を取り、すぐに姿勢を立て直した。
打開策のつもりが、むしろ投げ飛ばした方に、不利な状況を作ってしまった。何故ならスムーズに立て直しに成功したヘレスと違い、ベルダーは無理な体勢で強引に投げ飛ばしたせいで、各部に負荷がかかったらしい。明らかに駆動が鈍っている。戦闘に影響のない範囲でなら、なんら焦る要因にはならないが、そうではなかった。
左腕と右足が動かない。
腕と足は戦闘、というよりアルコーンの動作においてかなり重要だ。人を模して造られているのだから、それは当然の話。故に腕や足、関節を狙うのは、対アルコーンにおいて重要な戦法である。
しかしその欠点は素人でも考えればわかることであり、製造している職人たちも簡単に損傷しないように設計し、組み立てているのだ。
だからこそ、アラステアは自身のベルダーのこの致命的な故障が命取りで、戦場における最も効果的な絶望であることを、実感せざるを得ない状況となってしまった。
赤いヘレスが自身の首を取ろうと、迫りくる。しかしその時、空中を通過するいくつもの物体が見えた。
(あれは…)
敵も気づいたようで、それを見て何かを察したように、急速な退却を見せた。
『殿下!!ご無事ですか?』
「ヴァルナス、残念ながら動けません」
『なんと!少々お待ちを』
ヴァルナスは部下とともに、イルザーノで背中をこじ開け、アラステアを救った。
『お怪我はありませんか?』
ヴァルナスは、彼自身の指示で待機させていた予備のイルザーノに、アラステアが搭乗するのを見届けて、言った。
「ええ。それよりあれは…」
『ウルディ戦法ですよ。イフィア殿下の発案です』
「やはりそうですか。では急ぎましょう。爆炎に巻き込まれては、たまったものではありません」
アラステアは周囲の友軍にも撤退を促し、一旦拠点へと戻ることにした。
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