第25話

 矢が、槍が、剣が飛び交う。剣すらも飛び道具に使うほど、混沌とした戦場だ。イフィアは兄ヘルムインをサポートしつつ、敵を倒していた。

『無理はするなよ。これ以上、親族の死はいらん』

 突然、イフィアのヘレスはヘルムインのベルダーに向かい、剣を放つ。

 放たれた剣は、屈んだベルダーを越え、背後から襲いかかるウォーブの胸を貫く。

「これでも?」

『…いや存分に戦ってくれ』


 その後も敵を倒していたが、元々は状態が良かったとはいえ、乗り捨てられていたヘレス。耐久限界は明らかであり、イフィア当人が一番そのことを実感している。

『さすがにそれ以上はをしていることになるぞ、我が妹よ』

「そのようね…」

『イフィア、前線拠点で指揮を執れ。替えのアルコーンもあるだろう』

「それが最善ね、兄さん」

 ヘルムインは自らのベルダーが傷つきながらも、周りの味方と共にボロボロのヘレスを撤退させた。


 前線の激しいぶつかり合いに対して、後ろの指揮官たちは冷静に戦況を分析している。

「伝令兵によれば、敵は約7000。2ベルタス先には、敵の拠点がありますから、これの3倍はいるでしょう」

 前線から帰還し、テントに現れたイフィアに、キトン・ポアスが報告した。イフィアは少し唇を締め、テーブルに広がる地図を見る。

「ソルモール軍も再び攻勢に出るでしょうし、物量ではとても」

「ポアス将軍、ドウ族が来るまで耐えられると思う?」

「耐えるしかありませんよ、イフィア殿下」

「そうね。それにしても…」

 イフィアは兜を脱ぎ、頭頂部を触る。

「やっぱりナシリアの軍隊はあまり積極的には思えない」

「むしろソルモールを警戒していますな。わざわざパヤの森の向こうに撤退した部隊を、追撃していたようですし」

「ナシリア・メウ・フィモンド…」

「底知れない女」


 イフィアは睨んでいた地図から目を離し、ポアスを見る。


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