第17話

 激しい火花が、眩く空に散っていく。しかし、普通ならばこうはならない。何故なら、サーレーンの剣は、何物も容易く断つアウルムで、出来ているからだ。

(このアルコーンも、まさか…)

 アラステアの動揺は、すぐに体、そしてサーレーンの動きに現れた。切り結んだ剣に込められた力が緩んだ。

 それは時間にしたら、一瞬。しかし、それは致命的な一瞬だ。


 敵は、その切っ先をサーレーンの胸に向けた。それはつまりアラステアに向けられた、ということになる。

 だが、突き立てられた剣がそこを貫くことは無かった。サーレーンの肘の装甲が、それを阻止したのだ。

 甲高い金属音が、戦場にこだまする。


 追撃するだけの余力はないだろうと、大半の熟練者たちは考えていた。パヤの森まで追い返すのがやっとだと。

 敵が浮き足立っていること、アラステアや王室騎士団らが、ソルモール側の熟練者を相当討ったことで、数以外の不利は覆せたと言える。

 いや、言えていた。ナシリア配下の軍が来るまでは。


「ピス!ヴァルナスたちはどこだ!?まだか!?」

「ヘルムイン殿下!今向かっていると!」

 押し寄せる増援に悪戦苦闘するウェルギス軍。


 眼前の侵略者に集中するウェルギス軍。そんな状態で、2つの軍隊の相手など戦略的にも戦力的にも、出来る余裕はあるはずもない。

 ヘルムインは後退を決意した。

 しかし、彼は敵軍の奇妙な、異様な動きに気づく。敵味方構わず、行く手阻むものを攻撃している。


 ヘルムインは底知れぬ狂気の嵐に、自らも襲われていくような気がして仕方なかった。

 

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