第16話

 ウェルギス侵攻の拠点の一つ、ハーノメント城の玉座に、ナシリアは座していた。250年前まで、かつてのギュレア王国の王たちが鎮座していたことに思いを馳せ、肘掛けの部分を、嘗め回すように撫でる。

 扉が開き、やせ細った中年の男が現れた。眉間にしわを寄せている。

「ナシリア殿下、アルヴィア将軍と配下の軍が、もうウェルギスに到着したとのことです」

「パソール、サーシャを飼いならすのが、そんなに不満?」

「いえ…」

「まぁ、いいわ。早く指揮に戻りなさい」

「あの、皇帝陛下には…?」

「好きにしなさい」


 パソールが去り、再び孤独の空間となった王の間。ナシリアは、天井に住まう創造神と天使たちを見上げた。顔の強張りが、一気に解きほぐされていく。

 他人から見れば、天井画でしかない。しかしナシリアにとっては、全くの希望なのである。


辺りのヘレスを一掃し、周辺がイルザーノとクァドゥアで埋まり始めた時、サーレーンの中のアラステアは、胸騒ぎを抑えられなかった。

 明らかに通常のアルコーンとは、違うシルエット。見たことの無いそれに、アラステアは、心臓がかき乱されている。

(この感じ…)

 アラステアは、一番近い高位の指揮官にコンタクトした。

『これは、アラステア様!勢いは我が軍に!』

「ゴルニ、一旦下がり──」

『アラス──』

「ゴルニ!」

 アラステアは、後方から聞こえた金属が切り裂かれる音で、何が起こったかを悟った。

(何ということ…)

 アラステアは、それに対峙する覚悟を決めた。すでに、それは背後にいる。

(もう真後ろ…!)

 サーレーンの刃と、それの刃が、交差し、激しくぶつかった。

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