第14話

「ウェルギス侵攻は順調そのもの。現に、残す国土はウェルギス城とグランウェリオンのみ。虫の息ではないか」

 重く分厚い男の声は、その場の者たちにのしかかった。異を唱えるものなど、1人も生み出す隙は無い。

「それはそうと、プローグ侵攻はどうなのだ?あの国の資源は、我が国の発展に不可欠である」

 最高幹部たちは、互いの顔を見合わせている。

「それが…」

「ワードックの軍勢に敗退を喫したようで…」

 怯えたネズミのような声で、クォードは言葉を絞り出す。

「ワードックか。厄介な男よ」

 最高幹部たちは、その意外な反応に、安堵のため息をついている。

「…プローグに、フュークを向かわせろ。オスティカ侵攻は遅れて構わぬ」

「御意に。セノティオス陛下」

 

 重厚な扉がゆっくりと開き、外の光と共に甲冑を着た人物が、入ってきた。金属のすれ合う音だけが部屋に響く。

 その人物はちょうど呼び出した人物と向かい合う位置で立ち止まり、ひざまずいた。

「顔を上げて、兜を外しなさい」

「仰せのままに、ナシリア皇女殿下」

「…いずれは、よ。サーシャ・アルヴィア」

 サーシャ・アルヴィア。かつてソルモールに対して反乱を企てた首謀者。彼女は本来は死罪となるところ、裁きの結果、終身刑となり絶海の孤島で、孤独な最期を迎えるはずだった。ところが、ナシリアの懇願により、その運命は幻となった。


 ナシリアから下がれという命が下ると、サーシャは再び兜を被り、ナシリアにお辞儀をしてから、出撃準備に向かった。


 そう。彼女が目指すは、ウェルギスの戦場である。

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