第13話

 アラステアはなおも敵を薙ぎ払っていた。士気が上がり勢いで押しているとはいえ、敵の数自体はこちらを圧倒している。眼前の広大な草原は、ソルモールの国旗で染まっていた。

 それでもアラステアの周りは、自身の活躍も相まって、見事に味方が劣勢を跳ね返していた。概ね門前の戦場は、ウェルギス側が掌握しつつあった。

 優秀な軍師で戦士だったマーサス・ヴィロンの死は、間違いなく敵の指揮系統に影響を及ぼす。今はまだ、戦場の混乱で敵はうまく把握していない。それでアラステアは、敢えて進軍を鈍化させ、ミスラールの頭部をもぎ、それを敵陣に遠投した。勿論、ソルモールの兵士達はその意味をすぐに理解。アラステアの思惑通り、混乱に陥る。

 ウェルギス軍は再び、攻勢をかける。


 マーサス・ヴィロンの死の報せは、アルコーンの通信機能のリレーで、ソルモール本国へも伝わった。

「ほ、本当なのか、それは!?」

 最高指揮官であるクォード・ホルトは、思わず立ち上がった。円卓を囲うソルモールの最高幹部たちも、立ち上がりはしなかったものの、おおよそ同じ反応を示している。

「皇帝陛下!」

 クォードは円卓を見渡す位置に座す男を見た。

「うろたえるな。カラーンの艦隊と、メッサの騎士団を向かわせてある。我々の優位は、いささかも揺るがぬ」

 白髪で色黒のいかついその男こそ、ソルモール第52代皇帝、セノティオス8世だ。その最高権力者の言葉に、臣下たちはすぐに静まった。

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