第131話 得る者

「あの時の…」


 闘技大会の予選で使われているフィールドは、参加していた時は砂漠以外には知る由も無かったが、全部で4つのフィールドに分かれている。まず俺が参加していた砂漠フィールド、いま勝者が決まった草原フィールド。障害物が多い荒野フィールドに、姿を隠しやすい森林フィールド。


 あの時の初心者ごっこをしていた少年が、今や全プレイヤーの頂点を決める戦いに挑むまでになった。


「本当にロールプレイだったのかな…」


 彼がいま頂点の一角に名を連ねているのは、彼が現実の世界で体の動かし方を熟知していたからだろうか。それとも単にゲームが得意だったのだろうか。恐らくそのどれにも当てはまらないのだろうと、漠然とした確信が心に染み込む。


 アレは演技などでは無かったのだ。


 唯がむしゃらに、愚直なまでに突き進む姿は演技などでは無く、彼自身の等身大の姿だったのだ。


 あの時から彼は、多くの物事と出会い。そして向き合い、そして乗り越えて来たのだろう。俺とは違い。最初からNPCを疑似人格のキャラクターなどとは、欠片も認識せずに。


 疑問を口にすること、出来ない事を出来るように努力すること。そのどれもが誰しもが行う、当たり前。だがそれは、相手を識者だと認識しているからこそできる行動であり、ましてやそれが人間とも認識していない相手であれば、話しかけることすら少ない。


「…負けるわけだ」


 ここはグリモワール・オンライン。ゲームの世界・・だ。世界には法則ルールがあって、自然が息づいていて、生き物がいる。


 俺はジョナサンの護衛依頼で、この世界を全身で感じ取った。今度は自分から向かって行けば良い。


「…いろいろ。彼等と話して、みるかな」


 あのクエストから、この国に違和感を持つ様になった。それはいつしか確信に変わり、突如牙を向くこととなる。


『決着―!』


『見事、最後の決勝進出は!』


『うんめいにみちびかれし、ゆうよくのせいじょ』


『ツバキだぁぁぁ!』


「ぶっ!」


 ツバキって、椿ちゃんじゃないだろうな。



                    ♪



 私たちは運良く三人ともが、同じフィールドに降り立った。そこはふっとい木が何本もそびえたってる様な深い森で、黒猫な私には影が出来て隠れやすく、正直なところ戦いやすい当たりのフィールドだ。


 別に他の参加者と連携して戦うのは、反則でもインチキでもない。荷物を持った知り合いに手伝ってくれと言われれば、大抵の人なら手助けする。それを禁止する事は出来ないし、していたら道徳的にアウトだと私は思う。


 いつも三人でパーティを組んでいた私たちは、その場に揃えばいつものように互いに足りない所を補い合った。私がスピードと手数で惑わせて、尾音ちゃんの攻撃で大ダメージを稼いだ。傷を負えばツバキちゃんが直してくれたし、なんなら後ろからの風属性魔法で援護もしてくれる。


 最高の仲間なんだ。


 私たちは他のプレイヤーを倒してポイントを稼ぐよりも、生き残る事に注力した。ポイントはイベント終了後に装備やアイテムなんかと交換できるあるだけ嬉しいものだけど、生き残って決勝に出る事がこの戦いの目的なんだ。私たちは目的を履き違えちゃいけない。椿ちゃんはそう言っていた。


 必要な時には戦って、それ以外は身を隠した。目的を達成する為に。


 やがて時間が経つとフィールドに罠が現れる様になった。先行して辺りを警戒する私は罠の存在なんて簡単に看破できるけれど、プレイヤー全員が罠を見つけられる訳じゃなくて、目の前で罠に掛るプレイヤーも何人かいた。


 プレイヤーが少なくなったのだろう、次第に戦場となっているフィールドが縮小されるとアナウンスが響いた。いよいよ、決戦の時が近づいてきている。私たちが最後に残ったその時は。


 それは久し振りの会敵だった。


 それは革装備が基本となっている私たちから見れば、異形の姿。全身を頑丈な金属鎧に包まれた戦士がそこにいた。それは私では両腕で抱えても、とても持ち上げられないだろう巨大な剣を二振りをそれぞれ片手で担っている。


 私は悟った。


 こいつには勝てない。


 猫が人間と戦うような物だ。


 どうせ逃げ道はない。


 猫は勝てないまでも、手傷を付けることは出来る。


 抗おう。


 戦士との戦いが始まった。三対一でも勝てないかもしれない相手。木々が立ち並ぶフィールドを物ともしない斬撃は、太い幹を簡単に切り倒した。思いもよらなかった一撃を受けて、ツバキちゃんの回復が遅ければ最初の攻撃でやられていた。


 その間にオトネちゃんがスキルを使っての攻撃。それを片手の大剣で、軽く受け止められてしまう。直ぐに私が後ろに回って攻撃しようと走り出すも、もう一方の剣で周囲を薙ぎ払われて、近づくことが出来ない。


 その時、オトネちゃんが私の名前を叫ぶ。


 分かったよ。


 私はツバキちゃんに倒せないボスと出会った時の作戦を伝えた。迷った様子を見せたツバキちゃんだけど、私は返事を聞かずに戦士に立ち向かって行く。


 私たちの役目は、ツバキちゃんの準備が整うまでの時間を稼ぐこと。例え命を落とす事になっても。


 もうMPを温存する理由もない。少ないMPをケチったりせず、全部魔法につぎ込んで、兄上の『ダークルーム』を使う。動画で見た分だと、ただ縮まっていく半球を作り出す魔法だけれど、アイツを釘付けするのにこれ以上の魔法は無い。


 アイツと一緒に閉じ込められたオトネちゃんが倒れた時、待ちに待ったツバキちゃんの声が届いた。


 ざまぁみろ。アンタは私と一緒にここでリタイヤ《死ぬの》よ。


 最後の光景は、暖かい涙をながした天使ツバキちゃんの姿だった。

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