第130話 予選の後で

 結局は足元の蟻地獄に飲み込まれて、俺の闘技大会イベントは予選敗退と相成った。


「…やっぱり対人戦って難しいよな」


 思い返しての反省会。幾ら自分の得意な戦い方が出来ないからといっても、1キルしか出来なかったというのは、それは成果と言えるのか。しかもその1キルは、初めて間もないであろう進化前のプレイヤーだ。


「…はぁ」


 敵がモンスターなら召喚したモンスターに足止めさせて、後方から魔法を打ち込むだけである程度何とかなってしまう分、攻撃しながら移動するとか間合いを取る技能を持ち合わせていなかったのが大きな敗因だ。


 敗退の直接的な原因である蟻地獄は、ゲーム運営側が仕込んだフィールドギミックだった。蟻地獄の他にも時間経過で現れる砂嵐、砂を掻き分けてせり上がって来るピラミッドと、生き残ってさえいれば刻々と変化する戦場を楽しむ事ができたのだろうか。


「ま、元々優勝できるとは思ってなかったけどさ…」


 参加した以上は優勝を目指すのは当然の事だけれど、その自信があったかと聞かれると全くなかった。勝ちたいとは思うものの。


 今回の対人戦では大鎌との相性が大問題で、グロノスが大鎌に変化したから今まで使用して来た武器種だけれど、対人を想定して別の武器を手にするいい機会かもしれない。


 魔道書の変化させて使用している大鎌は、武器の耐久値を気にすることなく使用できるのが強みだと思っていた。もし俺が剣と盾を持って戦っているとして、相手の攻撃で手にしていた剣が吹き飛ばされたら、相手は当然チャンスと見て攻勢に出る。丁度、あの予選の時みたいにだ。そこでグロノスを大鎌に変化させて、迎撃できればどうだろうか。


 魔道書を変化させた武器は、装備品ですらない。相手に知られていなければ、奇策にはうってつけの武器にはならないだろうか。


「そりゃ、みんな手持ちの武器使うわな…」


 俺が考える様な策は、他の誰かが既に思い付いているハズだ。もしかしたら既に常識となっているのかもしれない。


「結局、装備を更新できなかったのも痛いよなぁ」


 生産スキルが足りずとも装備を扱っている店はあったのだから、スキルが間に合えば生産するからと考えたのが間違いだったのだ。人事を尽くして天命を待つ。実践できずに敗退するは、余の不徳とするところ、なんてな。


「反省会は大会が終わった後にしよう…せっかくのイベントなんだから、露店も回って」


 俺の様に敗退した参加者が他の誰かと一緒に観戦しようと、広場に集まりだしたのがきっかけで、人が集まっているからと露店を開くプレイヤー。イベント開始から2時間も経てば、立派な祭り会場である。


「唐揚げ、串焼き、飲み物の屋台。…あれ、何の肉だ?」


 戦闘がメインのイベントも、それをどう楽しむかは参加者次第。戦って負けた悔しさは有っても、それで腐る様な奴はすぐにログアウトしてしまうだろう。次の勝利を目指したプレイヤーは、露店の装備を吟味している。


「…何か掘り出し物でもあるのか?」


 露店に近づいて見れば、何だか不自然な出で立ちの店主が出迎えてくれた。


「やぁ、どうも。アシストの武器露店だよ!」


 アシストとは随分と振り切った名前だ。生粋の武器職人を思わせるのだが、その服装は鎧に兜と誰が見ても騎士とわかる格好をしている。


「…見せてもらえるか?」


 武器屋だって好きな服装をする権利はあるのだ。どうせプレイヤーだろうし、ネタ装備はRPGの定番だ。公式の販売がされていないから、自分で作ろうと思ったのかもしれないし、単純に客寄せで騎士姿をしているのかもしれないじゃないか。


「もちろんだ。好きに見て行ってくれ!」


騎士の剣  種類 剣 ランク2 耐久値1500 品質C

 筋力+5 体力+5 器用+5 

  騎士甲冑と共有したデザインを持つ、量産された剣。


騎士の槍 種類 槍 ランク2 耐久値1200 品質C

 筋力+8 体力+3 器用+2 素早+2

  騎士甲冑と共有したデザインを持つ、量産された槍。


騎士の弓 種類 弓 ランク2 耐久値1000 品質C

 筋力+3 体力+3 器用+5

  騎士甲冑と共有したデザインを持つ、量産された弓。


 目立つのは、やはり騎士と銘打たれた武器の数々。武器屋とあってか、店主が装備している様な鎧などの防具は売りに出されていない。


「騎士装備か?」


「ああ、そうさ!」


 俺の何てことの無い呟きに反応した店主が答えていると、まだ幼い顔立ちをした少年が露店に駆け込んで来た。


「あ、おじさん。この騎士の槍ちょーだい!」


「あいよ、その辺の兄さん方にでも自慢してやってくれ!」


「うん!」


 割り込んで来た少年を切っ掛けに、これ幸いと露店から離れる。


「物は良いんだろうけどな…別の武器に変えるにしてもランクの高い武器だとその分高いしなぁ」


 今更だが自分のスタイルと手に合った武器を選ばなくてはいけない時期なのだと思う。それならば手当たり次第に武器を試してみたいが、生産スキルの事情もあるので、自分で作成しつつ試して行きたい。もし買うのだとしてもお試しなのだから、安く済むランク1の武器を選ぶべきだ。


 探していた掘り出し物は、アイテムや装飾品だ。武器にも興味があるのは間違いではないのだが、買う気のない冷やかしになってしまうのだから、他の客がいるのなら邪魔にならない様に離れるのが良いだろう。


「うん?」


 広場を賑わせる露店を横切り、チラリと商品を流し見ながら歩いていると、表示させていた大会の生放送から解説者の大きな歓声が響く。


『決まったー!』


 解説者のリリネットは、拳を振り上げ高らかに宣言する。


『草原フィールドを制したのは、『童顔の勇者 ぜっぺろん』ダアァァ!!』


 俺の目がおかしくなっていないのならば、ロングソードを掲げた少年には見覚えがった。


「…βの?」


 あのプチラビット相手に手も足も出ず、ボコボコになっていたあの少年だった。

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