第三章 某国戦争編
第101話 人族の国
とある王都の薄暗い玉座に、白髪の老人が鎮座していた。
老人の目は荒み切っていて、肌がこけてうっすらと骨の形を目で確認する事が出来る。
「そうか…失敗であったか」
「はっ……兵力を削ることには成功した様ですが、今年に入り冒険者の数が増加したとの報告が上がって来ております」
老人の言葉を受けた鎧姿の男は、淡々と現状の報告を続ける。
「現在のアメシストでは、これ以上の収入は見込めません。早急に新たな資金源が必要で…」
「…わかっておる。その為にゴブリンを使ったのであろうが…」
約一週間ほど前に突如として現れたゴブリンの軍団は、老人を始めとした国の主要人物が送り込んだ物であった。
彼らがカルセドニーを狙った理由は、自然に溢れた豊穣な領土にある。
この国は常に財政難に見舞われている。
冒険者ギルドの本部を抱える経済の中心地『カルセドニー』。
物作りが得意なドワーフが起こしたと云われ、大陸一の開発力を誇るドワーフ族の国『クロバク』。
自然を愛し、多くの知識を集める大陸最古の国でもあるエルフ族の国『クンツァイト』。
その見た目から人族を中心に差別され、それを切っ掛けに建国を果たした獣人族の国『ローサイト』。
元々は唯の憩いの場であったが、差別の激化で建国に至ったビット族の国『ネリアン』。
戦争や差別に嫌気が差した者達が建国した魔族の国『ファブロ』。
かの国々は、それぞれ国特有の商品や資源を活用し、経済を発展させている。
だが彼らの国には特産と言える物は、存在していない。薬草も鉱物も何処の国でも探せば見つかるというレベルの品であり、簡単に金に換えられそうなのは盗賊や山賊くらいの物である。それが極めて特色のない国、アメシストなのである。
「一体のゴブリンを進化させて、かの国に潜り込ませたまでは良かったのですが…」
「次の手を考えるしかあるまい」
この大陸に存在する国々は、お互いを助け合う同盟を結んでいる。しかし、人族の国アメシストはこの同盟に参加を許されていない。それはアメシストが種族差別を唱え始めた国であると同時に別の場所から移り住んで来た外来種であった事も関係している。
アメシストは彼らの先祖が暮らしていた『ある』土地から、逃げ延びた者達が作り上げた国なのだ。その逃げ延びた先祖かが何世代前なのか、正確な数を唱えられる人間は既に人族の国『アメシスト』には居ない。
逃げ延びた人族の集団が、獣人を始めとする異種族に出会ったら。恐怖心から差別が始まるのは、そう難しい事ではなかったのだろう。
「とは言え、直接手を出すのは愚策」
「…モンスターを連続で使うというのも勘繰られそうではありますな…」
「そうじゃ…賊を使え」
自らが仕える王の言葉に鎧姿の男は、内心の動揺を隠しながら答える。
「……な、なるほど。それならばゴブリン同様怪しまれる事無く、行動が起こせます!」
賊の手配を口実に玉座の間から、抜け出すと男は独り言を口走る。
「賊を使うなど何を考えているのだ…賊共はゴブリンとは違う。賊は人であるが故に扱いが難しく、人であるが故に言葉を使うのだ。背景など容易に口にする」
どんなに愚痴を口にした処で、主命に逆らえないのが騎士である。それも騎士団長となれば、下の目もある。
「国が滅びるのも、そう遠くはないかも知れんな…」
国の危機を感じながらも、このまま滅びた方が良いとも考えてしまう。そんな生真面目な男であった。
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