第97話 牧場夫婦のゲーム日誌、その2

 〇月×▲日(雨)


 深雪とゲーム内での初対面を果たした後、案の定『家庭菜園』がしたいと言い出した。土地柄というのか、個人で畑を持つのは難しい様で、一先ず資金をためる為にクエストを受ける事にした。


 クエストを幾つかこなしていると「何でゲームの中でも仕事をしているんだ?」と自分の行動が不自然な気がしてくる。しかし、昔からRPGとはこんなものだ。



〇月××日(雨)


 なるほどと感心させられる。畑は個人では持つことが出来なかったが、利用する方法はあった。畑を管理している国の役所に畑のレンタルを申し込むのである。そんな馬鹿なと思いはしたが、理由を聞いてみれば納得がいくものだった。


 まず冒険者の国という側面から、この国には世界中から冒険者つまりは人がやって来る。人が動けば物が動くという訳で、冒険者が消費する物資を売り込む商人、モンスターのドロップ品を買いに求める商人と人の流れが出来上がって経済を動かしている。


 そして消費する物資は服や装備だけではない。そう最も多く長く消費される物、食料だ。


 魚は海が傍にあるので早々困ることは無い。肉はモンスターがドロップしてくれる。では野菜はどうだろうか、結論は人の手で育て収穫するしか無いのである。


 国を運営する重大な仕事を行う上で誰しもが考えるのは、食料問題だ。国の収入の多くをモンスターの素材で補っているのだから、カルセドニーという国は食料に関して敏感にならざる負えない。いくらか輸入に頼るとしても、この国はモンスターが蔓延るファンタジー世界に存在しているのだ。輸入品を運ぶ船や馬車がモンスターに襲われるともしれないし、いつ城壁の向こう側がモンスターで埋まっていてもおかしくないのだ。つまりは外からの補給に頼り切ることが出来ないお国柄という訳だ。


 カルセドニー国は食料に慎重になるあまり、野菜の生産を国元で管理している。これは全て国が大コルを注いで運営している訳では無く、生産する土地や農家、野菜を最終的に管理するシステムを作り上げたのだ。


 簡潔に説明すると、国が農地を用意し、畑を持ちたい農家が役所に申請を出す。畑を貸し出しても問題ない人物であった場合は畑を貸し出し、農業に従事する。出来上がった作物を出荷して良い物なのか、国が精査を行い問題がなければ売りに出せるという物だ。


 何故そんなに慎重になるのか疑問に思ったのだが、植物性のモンスターは毒持ちが多いのと何処にでも人の悪意が介入するからだそうだ。


 ゲームなのだから、もっと気楽にやらせてほしいものだ。

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