第91話 妹様冒険譚、その2
船を降りてから、何事もなく親友二人と合流することができた。
「オトネちゃんツバキちゃん、二人とも可愛い!」
私たち三人のプレイヤーネームは、お互いが合流しやすくなる為に現実の名前をそのまま使用している。元々珍しい名前という事もあって、ゲームの中で目立つことはない。
その代わり現実では珍しがられるのだけれど。
「オトネちゃんも猫耳…お揃いだね」
「おお、ホントだ!」
お揃いだーっとつい二人で、騒いでしまい人目を集めてしまった。反省。
「でも毛の色が違うね。種族違うのかな?」
尾音ちゃんに聞いてみたら種族は、豹人族だと教えてくれた。元気いっぱいで、お肉が大好きな尾音ちゃんのイメージに良く似合う。
ただ問題なのはツバキちゃんの種族だった。
「お揃いは~羨ましいですね~」
何時もの様にふんわりとした口調のツバキちゃん。でもいつもと違うのは、その小さな背中に生えた一対の純白の翼だ。
「気にしない様にしてたけど!」
「ツバキちゃんその羽根…」
私と尾音ちゃんが同時に口を開くと。
「「どうしたの!?」」
全く同じセリフだ。双子みたいだっとちょっと思った。
♫
姦しい三人漫才を終えて、事情を聞いた。
一言で言うとツバキちゃんは、種族をランダムにしたらしい。周りのプレイヤーさんが、ざわざわしている所を見るとレア種族みたいだ。
単に美少女のツバキちゃんに羽が生えて、天使みたいと騒いでいるだけかも知れないけれど。
「それで~これからどうしましょうか~」
「私はレベル上げしたいかな。魔法剣士になるんだ」
「ボクは世界一の斧使いになるよ!」
尾音ちゃんとは種族だけでなく、職業も被ってしまった。でも育成方針は分かれているので、取り合えず安心だ。
「そうですね~武器を仕入れたら~、モンスターと戦ってみましょうか~」
「「うん!」」
武器屋でそれぞれの装備品を購入した。
武器屋のおじさんは、黒い眼帯をつけた何処の作品にでも居そうなキャラクターだった。おじさんは初心者装備の私たちを見て「もう冒険者ギルドには登録したのか?」と声を掛けてくれた。
ギルドの存在など完全に忘れていた私たちは、おじさんにお礼を言ってギルドへ急ぐ事にした。
「そして現在に至る」
「どうしたんですか~」
「な、なんでもないよ」
急いで来たからか少し息が上がっている。だから顔が少し赤くなってしまっても仕方ないのだ。もしかしたら、初めて剣を握った興奮が原因かもしれない。
「早く登録済ませちゃおうよ。ボク斧振り回したい!」
「オトネちゃん、物騒だね」
私たちと同じ初心者装備の人たちが並んでいる列に加わる。
「結構な並んでるね」
「βを飛ばせば第一陣だからね。みんな早くプレイしたかったんだよ」
「そう言えば~、船も沢山ありましたね~」
そうこうしている内に私たちの番が来た。
緊張したけど登録は直ぐに終わった。
冒険者ギルドの詳しい説明を聞く時間はなかった。受付に続く列は、まだまだ長いのだ。
それでもクエストだけは受けて来たので、今度こそモンスターと戦いだ!
私たちは今、冒険者の国カルセドニーを出て直ぐ近くの平原にいる。悠々と伸びる草と馬車や旅人が作った一本道だけが、この場所の目立った特徴だ。
「あの道を辿れば、村に行き着くそうですよ~」
「今はモンスター退治だけどね」
そんなこんなで私たちの初戦闘の相手は、ファンタジーの定番ゴブリンでした。
「最初の敵が人型って、ちょっと嫌だよね」
「そうですね~」
「ホラー好きでもないとちょっとねー」
そんな話をしながら、ゴブリンの頭を斧で叩き割る尾音ちゃん。彼女のおじぃちゃんとおばぁちゃんは農家さんだそうで、家ではニワトリなんかも育てている。小学生の頃はそんな祖父母の家で暮らしていたそうで、お手伝いと称してニワトリを絞めたりしていたそうだ。
生き物を殺める事に忌避感が無い訳ではないけど、命を無駄にする事が一番いけない事だっと尾音ちゃんは言っていた。
「ドロップはアイテムボックスに直接入るみたいだね」
「インベントリじゃなかった?」
「そうだっけ?」
「呼び方は~個人の自由ですよ~」
視界に『ゴブリン1/3』がカウントされた事を確認する。
「ちゃんとパーティで討伐数は共有されている様ですね」
「んー、石の斧?」
「ドロップアイテムですか~?」
「うん。ボクのグリモワールって斧だからさ」
私のグリモワールは、剣だった。もしかしたら武器の名前が入った物が多いのかもしれない。
「私のは~運命のグリモワールでした~」
「何だかレアっぽいね!」
種族もレアみたいだし、種族が関係しているのかも知れない。
「このままレベル上げしながら、クエスト消化しよ~!」
「「「おおー(お~)!」」」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます