第39話 突入

 夜の討伐戦に向けて買い物を済ませよう。


 街の住人に場所を聞き薬屋に向かう。


「いらっしゃい」


「おやじさん、ポーションあるかな?」


「ああ、最近は冒険者が増えて品薄なんだが、底を尽くほどじゃないな」


 プレイヤーの増加に伴って需要が増えたのだろう。


 それでも購入が抑えられているのは、回復アイテムの値段が原因だろう。


ポーション 道具 レア度1 品質C

 HPを20回復する。 価格 500コル


マナポーション 道具 レア度1 品質C

 MPを15回復する。 価格 800コル


「けっこう高いな…」


「冒険者は皆そう言う」


 ポーションを各5個ずつ購入しインベントリにしまう。


「まいど。アンタは文句も言わず買うんだな」


「んぅ?」


「いやな、最近この辺りに宿主が増えてな。中には暴れる奴もいてよ」


 オンラインゲームである以上、色々な人がこのゲームをプレイしている。迷惑行為を当然の様に行うプレイヤーもいるのだ。


 そして、そのしっぺ返しは全プレイヤーが受ける事になる。


「色んな奴がいる。俺としては個を見て欲しいが…」


「まぁ、そうしたいんだがな。イメージてのは定着するからな、つい身構えちまう」


 それも仕方ないと言葉を残して店を出る。


 まだ使用していない魔法もある事だし、外に出て軽く戦闘をする必要があるな。


「精々確認だけだから、街の近くで良いか…」


 門番に挨拶をすると外に出る。


「ステータス…あ、レベル上がってる」


 最後に戦闘をしたのは、おっさんの捕縛戦だ。


 多分、捕縛や捕獲でも経験値が入るようになっているのだろう。そんなクエストもあった訳だから、可能性は十分ある。


「確認は、ポイントを振ってからだな」


名前  ジン

性別  男

種族  夜郷族Lv2

職業  死霊使いLv2


HP  81

MP  64

筋力  20+10(30)

体力  16+3(19)

器用  20+1(21)

精神  16+6(22)

知力  20+5(25)

俊敏  15+1(16)

運   10

種族ポイント  0

スキルポイント 2


 魔法の応用力が幅広いので、MPが上がる知力と夜戦に備えて体力を少し上げた。


 精神でも良かったけど知力は魔法攻撃力が上がりそうなイメージだったので決めた。実際はMPの消費で変動するから、気休めだけど。


「さて、始めるか…」


 街の傍は海が近い事もあって、平原が続いている。


 真っ直ぐに奥へ進むと森がある。掲示板で調べたところ相応の難易度だそうだ。魔蜂の森に出たハチ型モンスターやクモ、ヘビなど種類も豊富な様だ。


 既に挑んでいるプレイヤーもちらほらいて、その人たちが情報を公開しているみたいだった。


「『召喚』『サモン』」


 敵に襲われる前に召喚を済ませる。


 下僕召喚のレベルが上がったお蔭で、二対のゴブリンゾンビを召喚できた。まだ種類は増えないが、数の制限がない下僕召喚は複数の召喚が魅力だ。


「…ゴブリンか、装備落とすかな…お前ら攻撃だ」


 召喚したモンスターに攻撃の指示を出すと別の魔法を発動する。


「『ダークピット!』」


 モンスターとの距離を開けて、魔法の準備に移る。


「『ウインドボール』」


 呪文を唱えると登録時のイメージ通りに、体の回りを透明なボールが動き回る。


 俺がイメージしたのは、陸上のハンマー投げである。


 自分を中心に風の球が回転を続け、接近したモンスターに叩きつける迎撃用の魔法だ。


「何となく場所がわかるな…でも、大鎌で戦うときはやり難いか…」


 早めの夕食を取り終え、集合場所の冒険者ギルドに向う。夕方を過ぎステータスも万全の状態になっている。


「待たせたか?」


「いや、時間的には問題は無い、作戦の説明は隊の者に既に伝えた後だ。君には移動しながら聞いてもらいたい」


「わかった」


「では、出立します」


 盗賊団のアジトは国の下水道で確認されたそうだ。目撃情報から推測した場所は、正解だったという訳だ。


「下水道は建国当初から使用している為、街が広がるたびに増築を繰り返された。元が百年以上前の代物なだけに地図の欠損があり、全体の把握が出来てない」


「それこそ調査が必要だな」


「その通りだな。今回の様に利用されたのでは堪った物ではない」


 国が全体を把握できていないのに、盗賊はどうして知っていたんだろうか。隠れ家を探して偶然とも思えない。


 そもそも、本当に盗賊なのだろうか?


「今回は出入り口を警備隊で塞ぎ、少数精鋭で突入する。下水道は狭い場所があるので多くは入れない」


「わかった。アジトまでのルートは?」


「既に地図に書き記してある。地図通りに進むだけだ」


 地図がすり替えられていたら、罠に掛かるな。


 気になって聞いてみたら、今朝の少年が隊員の数名と共に調べたそうだ。その後、警備隊長が受け取り手放していないそうな。


「着いたぞ」


 到着した場所には、鉄格子で閉じられた真っ黒な穴が開いている。


 穴の中から水の音が聞こえる。


「中と繋がるのは此処だけか?」


「あと3カ所あるが、アジトはここからが一番近い。他の出入り口にも隊員を詰めさせている」


「…行くか」


 乗り込む警備隊の面々と視線が合う。


「ああ、頼りにしている」


 鉄格子を開き、下水道の奥へと進んでいく。


 ランタンなどを用意できなかったが、警備隊の隊員が明かりを手に前を歩いている。


 しかし、中に入ってみてから余り暗く感じない。


 入る前暗く感じたのは、戦闘エリアとの境界であったためかもしれない。


 突入してから暗さに不自由を感じなかったのは、夜郷族の恩恵だろうか。


「こちらを右です」


「分かった」


 案内されるまま連れて行かれるのは、なかなかに不安だな。戦闘エリアだし足元には水で、簡単に前後を挟み撃ちできる構造の道。


「この辺りです」


 不安要素を上げていると、いつの間にか着いたようで隊員が小声で声をかけた。


 見つからないように明かりを消して、接近を試みる。


 耳を澄ませると盗賊団のものなのか、宴会をしているような声が聞こえる。


「ったく、ヘンデモの奴おせぇな。新人冒険者一人殺すのにいつまでかかってんだ!」


「ボス、落ち着いてくだせぇ。あんな奴下っ端でしょうが」


 ヘンデモは俺が捕えたおっさんだっと、小声で警備隊長が教えてくれる。


「バカ野郎!」


 ボスと呼ばれた大男が、もう一人の男に酒瓶を投げつける。


「ヘンデモの奴はどうでもいい。だが、アジトがばれるとマズイだろうが!」


「す、すいやせんボス」


「ふん!!」


 ボスは、また不機嫌そうに酒を煽る。


「脱出口は見当たらない…」


「あったとしても、行かない訳には…」


「分かってる…行くぞ」


 それぞれ武器を抜くと顔を見合わせる。


 全員が頷くのを確認して、盗賊団のアジトに乗り込んだ。


「『ダークノア』」


 ダークノアは範囲攻撃が欲しくて、登録した魔法だ。


 発現する現象は波。ダメージを伴う黒い波が、範囲一杯に満たされる魔法である。


「て、敵だぁ!?」


「見張りは何してやがった!」


「今は調理係だ!」


 ダメージを与えた後は消えてしまうので、接近戦の邪魔にはならない。


「シッ」


 目についた盗賊を片っ端から切り捨てる。


 乱戦。


 警備隊と盗賊団の戦いは、数で勝る盗賊団が有利なように見える。


「これで少数なのかよ…『ダークランス!』」


 ダークピットでMPを維持するのにも限度がある。ポーションはギリギリまで取ってきたいが、使い始めれば直ぐに底をつくだろう。


「チッ、しょうがねえな。『召喚』出て来いネズミ!!」


 ボスの声に従うように、ネズミがどこからともなく出現する。


「大きさは人並みか…『識別』」


ラージラット 魔獣 レベル10 ランク3


「はぁー」


 1対1で戦えば、確実に負ける相手だ。だが今回は、一人でもないし手数も増やせる。


「そっちが先にやったんだから、文句は無いな。『召喚』『サモン』」


 ゴブリンゾンビ2体、黒猫1体を召喚する。 


「…行け」


 正直、呼び出したモンスターを戦力の追加としては考えていない。こいつ等は動き回って警備隊員の回復をさせるのだ。その為にゴブリンゾンビには、ポーションを持たせている。


 黒猫は遊撃に出て、盗賊に隙を作らせる。


 警備隊長の方は、ボスとの一騎打ちを演じている。援護したいが、イベント扱いの様だ。


 装備を杖に変えて呪文を唱える。


「『ウインドボール』『ダークランス』『ウインドカッター』」


 MPの増減をコントロールしながら、攻撃を続ける。


 突然ネズミがバチバチと放電を開始した。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あぁ!?」


 俺は位置取りを気にしていたから、直ぐに水のない場所に跳び引けたが、警備隊長を含め盗賊たちですら巻き込まれている。


「どうにかして足場を…【土魔法】!」


 SPを消費して【土魔法】を取得する。


「よし、登録。『グランドカーペット!』」


 【土魔法】で周囲の足場を土で被う。


 土が水気を吸って、多少はマシになった筈だ。


「ふぅ、MPが少ないな。マナポーションを使っても長くは持たない。これは接近戦しかないな!」


 再び装備を大鎌に切り替えマナポーションを飲み干す。


 ラージラットの方を見るとまるで、待っているかのように俺を睨んでいる。


 そして、動き出したのは同時だった。


「ハァ!」


 大鎌を振ると同時に魔法を掛ける。


「『スロウ!』」


 放電を起こした生物に麻痺が効くのか不安だったので、発動させたのはスロウ。


 期待通り隙を作ってくれた。


「『ポイズン!』ダァ!」


 魔法を唱えると同時に切り付ける。


 切り口に毒を塗り付けるイメージだ。ダメージは塩を塗るどころではない。


「ギュュュユュウゥ!」


「凄い痛がってるな…」


 毒が効いた様で徐々にHPが減少している。


 正直ここで無理に戦う必要はない。毒の状態異常を維持しながら、回避を続ければいいのだ。


「同じ回避なら、近距離が良いよな?」


「ギゥアアアア!!」


 問いかけに答えるように暴れ始めるラージラット。


「お前もこのまま終わりじゃないだろ?」


 最初から、楽に勝てる相手じゃないのは分かっていた。


 こんなボス紛いの敵は、下手に離れる方が危険だ。誰もが距離を置きたがる相手は、その距離に慣れているものだ。


「シッ!?」


 ラージラットの首を狙って大鎌を振るう―――瞬間、体毛がバチバチと放電を始めた。


「ガッ!?」


 痛い。VRの体感ダメージもさることながら、俺のHPもここまでの戦闘で三分の二は持って行かれた。


 βの頃と比べると不自然なほど頑丈になった気がする。防具のおかげだろう。


「ったく」


 状態異常は受けていない。


 大鎌を構え直した。


 ラージラットの長い尻尾が迫る。


「『ウインドボール!』」


 咄嗟に迎撃用の魔法を唱える。


 発現した風の球は、直ぐに尻尾を弾いた。


「…終わりだな」


 ラージラットのHPを確認すると既に毒によって、倒れた後だった。


 あの尻尾は、ラージラットの最後の攻撃だったのだろう。


≪種族、職業レベルが2上昇しました。種族、スキルポイントを獲得しました≫


≪スキルレベルが上昇しました≫


「疲れた…」


 警備隊長も倒れているが、ボスは倒したのだろうか。

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