第38話 ネズミの巣穴

 兵士長に連れられてカルセドニーの城に到着した。


 城の外観をどう表現したものか、とにかく大きいの一言だった。


 平地に建てられているので一応は平城になるのだろうが、ファンタジー世界の城と言えばヨーロッパの城がモデルにされている物が多い。


 実際に目の前の城は、戦国乱世の日本製ではない。しかも、唯の城でもない。ファンタジーの産物なのだ。現実に存在したら過剰戦力過ぎて、周辺諸国に同盟が次々と誕生するレベルである。


 到着したは良いものの、落ちれば手が届きそうにない程深い堀が行く手を遮っている。


「…………」


 兵士長が見張りの兵士と二言三言の言葉を交わすと、入城が許可された様だ。


 跳ね橋が徐々に降ろされる。


「話を聞くのは私だ。陛下の前に出ることも無いから、緊張はしなくても良いぞ?」


「気を使わなくていい、極度の緊張とは無縁だ」


 跳ね橋が降り夜に似つかわしくない音が響く。


「もう少し静かに出来ないものか。さぁ、付いて来てくれ」


 俺が頷くと振り返り橋へと歩を進めた。


 時刻は一時を過ぎた所だ。正直早く終わらせたい。


「着いたぞ。警備隊の本部だ」


 兵士長は兵士ではなく警備の人だった。いや、警備兵だろうか。


「まぁ、座ってくれ。おい、お茶を頼む」


 本部の取調室だろうか、入室すると言われるままに腰を下ろす。


「まずは自己紹介と行こう、私はサイル。ここカルセドニーで、警備隊の隊長をしている」


 兵士長ではなく警備隊長だった様だ。


「ジン。冒険者をしている」


「ああ、よろしく。あの男を捕えた状況などを詳しく聞きたい」


「あのおっさんが、ナイフ片手に…」


 俺が襲われた事や状況に加え、盗賊に関する推測を上げていく。


「隊長、取り調べが終わりました」


 サイルは他の警備隊員から、何やら紙を受け取っている。恐らくおっさんから吐かせた情報だろう。


「そうか…こちらも大体聞くべき事は聞いた」


「なら、俺の仕事は終わりだな」


 立ち上がったところで声を掛けられた。


「待て、話しておくことがある。今回、君が捕えた盗賊はマウスキーパーという盗賊団の可能性が高い」


「マウスキーパー?」


「ここ半年活動している盗賊団だ」


 半年も手が出せない理由が何かあるのか?


「半年間、何も成果が無かったのか?」


「…奴らは少数で行動を起こし、ネズミ型の魔物を使役している。その為、被害者は魔物に出会った事で命を落としたと思われていた。奴らの名前が分かったのは、ビット族の商人が傷だらけになりながらも生き残ったお蔭だ」


 いったい判明するまで、どれだけの被害が出たのか。


「その商人は?」


「生きている。まだ治療中だが…」


「そうか」


 俺に依頼したのは、ビット族の商人ではない様だな。


「今回の捕縛でアジトの場所が解りそうだ。…感謝する…!」


 言葉と共に深々と頭を下げる。


「…感謝されるような事はしていない…と言いたい所だが、それでは気が収まらないんだろうな。分かった感謝は受け取っておく」


「…すまん。だがこれで、あのネズミ共の巣穴に乗り込める。ジン君は眠たいのなら、本部の仮眠室を使うと良い」


 街に戻るのも時間が掛かりそうだし、部屋を借りるか。


「それなら、一晩世話になる」


 明日は冒険者ギルドだったな。


 案内された部屋のベットで横になると直ぐにログアウトした。


 翌日、朝食を済ませ『グリモワール・オンライン』へとログインする。


「慌ただしいな」


 そういえばログアウトしたのは、警備隊の仮眠室だった。警備隊なら朝から仕事が忙しくても説得力がある。


 ベットから降り立つと仮眠室のドアを開ける。


「ああ、お目覚めですか」


「ああ」


 廊下に出ると警備隊長に紙を手渡した警備隊員が話しかけてきた。


「冒険者ギルドに向う約束がある。勝手に出て行っても構わないか?」


「一応、橋の見張りに話を通しているので大丈夫です」


「そうか」


 聞きたい事も終わったので立ち去る。


 少し進んだところで振り返ると警備隊員の少年が、深々と頭を下げていた。


 冒険者ギルドに入り、マスターを呼び出す。


「お待ちしておりました。報告は部屋の方でお願いします」


 軽く頷くとギルドマスターに連れられ部屋に赴く。


 声掛けと共に長椅子に腰掛ける。


「クエストの現状は把握しております。警備隊の方から連絡が来ておりますので」


「報告は目隠しか?」


「ええ、職員の精査がまだ完了しておりませんので。そして相談事もありまして」


「今度は職員の調査か?」


 正直な所、調査関連の依頼はあまり気が進まない。理由は簡単、面倒なのである。今回の一件で、向いていない事も面倒な事も分かり、懲りたのである。


「いやいや、今回のは討伐クエストです」


 何を言う間もなくウインドウが現れた。


盗賊団の討伐 ランク3

 報酬4500コル 盗賊のアジトが分かった。至急討伐してくれ。


「まだクエストの完了を受けていない」


「そうでした。クエスト盗賊の調査、完了です。報酬をどうぞ」


 報酬の1000コルを受け取る。


「ランク2にしては、安いな」


「調査依頼は後で再確認の必要がありますので、捏造もされるのですよ。藁にも縋ると言うものでして、まさかギルドに潜り込んでいるとは思いもよりませんでした」


 ビット族のクエストは完了にならない。本人に報告する必要があるか、盗賊団の討伐が新しく発生した様だし、もしかしたら複数のクエストをクリアする必要があるのかもしれない。


「…ですので、受けて頂ければと」


「受けよう」


「ありがとうございます!」


 何か話していた様だが、受けようとしたら同じ手順を踏まなくてはならないのかもしれないと思ったら、引き受けない訳にはいかない。


「討伐は夜襲になります。どうか、よろしくお願いします」


 短く頷くと長椅子から立ち上がる。


「ネズミの巣穴は潰しておくよ」


 今日はマスターとの話の他にギルドに用は無い。夜戦に備えて、アイテムを用意しよう。

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