第37話 足取り

 夕食を終えて再びログインする。


 HPを確認したら夕方を過ぎてから、HP1から元の数値に戻っていた。


 クエスト盗賊の調査は、調べる範囲が記載されていない。その為、どこまで調べれば良いのか判断が必要となる。


「行くか…」


 カルセドニーの観光も目的に一つだった事だし、聞き込みもがてら観光して行こう。


 この世界は現実時間とリンクしているので、辺りはすっかり夜色に染まっている。


「散歩は出来るが…聞き込みは無理そうだな」


 この時間に話を聞く相手となると、酒場で酒を振る舞って聞き出すくらいしか思い浮かばない。未成年の入店は機械側からブロックされるので、話を聞くのは難しいだろう。


「こんな時間だと他に…屋台ぐらいか?」


 事件が起きて屋台のおやじが情報源になるという話は、定番の展開だ。他に行くあても無いので適当にフラフラと進む。


 なんだか体の調子が良い気がするのは種族特性だろうか、夜郷は夜を故郷と書くのだし、あり得ない話でもない気がする。


「おい、アンちゃん。こんな夜中に危ねぇぞ?」


「何だ、おっさん?」


 これが普通のおっさんなら気にしない所だが、右手にナイフを握っているのを見ると無視も出来ない。


「おっさんて…まぁ、おっさんだけどよ」


「それで、自他共に認めるおっさんがそんな物持って何の用だよ」


「おめぇ、知らねえのかこの辺に出る盗賊の話…」


 クエストの盗賊だと楽なんだが。


「それが、おっさんだと?」


「へ、まぁな。下っ端だけどな」


「その年で下っ端かよ…辛いな」


 軽口で時間を稼ぎながら、情報を搾り取れないか試してみる。


「ああ、酒でも飲まなきゃやってられん」


「それで、俺から酒代を毟ろうと?」


「ふん、ギルドで調査依頼を受けた新人を殺すように言われてな」


「そいつは物騒だな」


 ギルドに斥候がいたのか、職員が向こう側なのか。


「まぁ、死んでくれや」


「暗殺に一人とは、不用心だな」


「うるせぇ!」


 おっさんの持つナイフが右脇をかすめる。


 HPがドット削れる。


「な、お前HP1じゃあ…」


「はい、ギルド内通者確定ー」


 俺のステータスを読み取れそうな物は、ギルド登録時の石板ぐらいだ。NPC主導のクエストだし、他のプレイヤーは関与していない様に感じる。


 大鎌を展開し、体を拘束する。


「グッ、離しやがれ!」


「作っといて良かったよ『パラライズ』」


 おっさんはビックっと痙攣した後、動かなくなった。


「おまけに『スロウ』」


 これで麻痺の効果が切れるのを遅く出来るだろう、多分。


≪種族、職業レベルが上昇しました。種族、スキルポイントを獲得しました≫


 対人戦闘でも経験値は入るらしい。


「ギルドで、洗いざらい吐いて貰うからな」


 おっさんは俺の声が聞こえているのか、頬をわずかに動かした。


「なるほど、事情は解った。今回は城の牢に引き取らせてもらう」


「致し方ありませんな」


 俺がおっさんを引きずってギルドに入った瞬間、周囲を兵士に包囲されたのには吹き出しそうになった。


 どうも住人が通報してくれたらしい、結果的に手間が省けたので良しとしよう。


 他のプレイヤーが、死神とかざわついていたが酷い言われようだ。


「それと報告は、文章でだったと思うが…」


「いえ。ジンさんは、このままおいで頂くか明日に来ていただくかでお願いしたい。文面で確認するよりも質問に答えて頂ければ有り難い。クエストの方は、捕縛されたので情報が引き出せれば完了として良いでしょう」


 人質を解放して投降しなさーいな状況との落差に、笑みがこぼれそうになる。


「ええ、ギルドから情報が漏れたなど、こちらの落ち度。最低でも今回のクエストは期限を無視して頂いて問題ないでしょう。今回の事で冒険者ギルドの信用は、大暴落です」


 頭が痛いと眉間に皺を刻む老人は、ここカルセドニー冒険者ギルドのマスターだそうだ。


 カルセドニーは元冒険者が建国した国なので、その国の冒険者ギルドが信頼を失うと大陸中の冒険者が仕事にあぶれて、賊になりかねない。


 さぞ頭が痛い事だろう。


「幸いだったのは、発見したのが冒険者だった事か…」


 冒険者が冒険者ギルドの問題を見つけたとなると、同じ組織の人間なので自浄作用があると見なされる可能性がある。


 冒険者は自由に行動が出来るので、結構こじ付けではあるが。


「このまま同行しますよ。それで今日は、もう眠りたい」


「ふむ、それなら明日ギルドに顔を出して貰えるかね。盗賊の聞き取りも終わっているだろうから」


 俺は頷くと兵士長と共に城に向かった。

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