第36話 盗賊クエスト

ゴブリン。


 それは時に精霊と呼ばれ、時に妖精と言われ、時に幽霊とされ、時に亜人と扱われる。


 グリモワール・オンラインの場合は、どうなのか。正解は、出現場所によって変わるのである。


 この世界では、人語を話すゴブリンもいる。


 この世界では、善良な精霊ゴブリンもいる。


 この世界では、意地悪妖精ゴブリンもいる。


 この世界には、醜悪な魔物ゴブリンもいる。しかし幽霊ゴブリンはいない。


「ふむ」


 どうにも面倒な魔物の様だ。正式版から追加された魔物紹介ページをそっと閉じた。


「修正効果は嬉しい…だが材料がない」


 元々は時間潰しを兼ねた物だったのだ。当然手持ちの素材は少ない。


 ジタバタしても仕方がないので、魔法の追加をして行こう。


「まだ使ってない魔法が良いな」


 未使用の魔法と言えば、【呪魔法】である。


 【呪魔法】は呪いの魔法。接近戦をしながら、仕掛ける事を考える。


「接近…近距離。…嫌がらせ」


 単純に考えて、相手にデバフを掛ける魔法だ。つまり、嫌がらせをする為の魔法と言える。


「そう考えると相手にストレスを与える物が良いのか?」


 取りあえず、相手の動きを制限する魔法を登録してみよう。


「あ、出来た。名前は『スロウ』っと」


 名前の通り、速度低下魔法である。


 趣向を凝らせて思考速度を落とせないかと思ったが、さすがに体に悪いので出来なかった。


「後は…毒かな。『ポイズン』」


 名前に捻りがないのは、解りやすさ重視である。


「あー、スロウで毒の回りが遅くなったら意味がないな…『パラライズ』」


 これで移動を封じて毒で削りながら、ゴブリンゾンビに攻撃を任せられる。俺は距離を置いて大きめの魔法を打ち込んでやればいい。


「攻撃魔法も追加したいな…」


 風、闇にも魔法を追加しよう2、3個で良いかな。


「よし、後は検証だな」


 別に検証が好きな訳ではないのだが、登録した魔法の効果は確認しておきたい。


「さてと」


 作り上げたアイテムをインベントリにしまうと、作業場を後にする。受付の女性への挨拶をそこそこに、生産ギルドから冒険者ギルドへと足を延ばす。


薬草採取 ランク1 

 報酬250コル 薬草10本の納品。 常設


ゴブリンの討伐 ランク1

 報酬800コル ゴブリン5匹の討伐。 常設


コボルトの討伐 ランク1 

 報酬1200コル コボルト10匹の討伐。 通常


「うーん」


 今の俺にできそうなクエストは、この三つだろうか。


 コボルトも気になるが、やはりゴブリンだろう。


 もちろん武器、引いては妖精のインゴットが目当てである。コボルトも武器を落としそうだが、妖精でもないし価値は低い気がする。


 薬草は自分で使いたいから無理だな。


「盗賊…」


 ゴブリン討伐のクエストを受注しようと受付に向かう所で、不意に声が聞こえて来た。


「盗賊…調査」


 何かに引っ張られる感覚に振り向くと背の低い女の子が、袖を掴んでいた。


「何か用か?」


「盗賊、依頼」


「む?」


 背が低いのはどうやら、種族特性の様だ。そう彼女はビット族なのである。


 なぜそれが分かったのかと言うと、目の前のウインドウにそう書かれていたからだ。


ビットの個人依頼 ランク5 Uクエスト

 報酬???

  冒険者ギルドでビット族の女性に、特定の依頼を受ける様に頼まれた。

 

「むぅ?」


 考え込む振りをして時間を稼ぐ。


 Uクエストって何だろう。


 まぁ、ユニークなんだろうが、そうなると逃すのは惜しい。ランクは5と、現状では無謀だが、何とも面白そうである。


「何をさせたい?」


「盗賊…調査」


 そう言うと彼女は、1つの依頼を指さす。


 早速、受付で受注する。


「はい、盗賊の調査ですね」


盗賊の調査 ランク2

 報酬1000コル 盗賊が何所からか侵入しているようだ。詳しく調べてほしい。


「報告は文章で、受付までお願いします」


 依頼を受けて振り返ると、少女の姿は無かった。


「取りあえずは、聞き込みかな…」


 もうすぐ夕食の時間なので、いったんログアウトする。次なるクエストは、夕食後となりそうだ。

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