第23話 妹様、襲来事件
私、
「やっぱり『グリモワール・オンライン』でしょ!?」
「そうですね~、お洋服はかわいいのが良いですね~」
業界初のVRMMORPGで、ニュースでも取り扱われている話題のゲーム。
私を含めた三人は学校外で一緒に遊べる物について話していた為、話題のゲームにたどり着く事は当然の結果だったといえる。
私が何に困惑いや戸惑っているかというと。
「私…『アライン』持ってない…」
これに尽きる。
「大丈夫、僕も持ってない!」
「尾音ちゃん、自信を持って言うことじゃないよ…」
そもそも『アライン』は発売から生産数が少なく、多機能な為いろんな人が購入する。
生産数が多かったとしても入手は難しかっただろう。
「今度は銀行でも『アライン』が配備されるそうですよ~」
椿ちゃんのお父さんは財閥グループの会長さんだそうで、食事中にお仕事の話を良くするそうです。
「銀行って、国本?」
「さぁ、それはどうでしょうか?」
逸れていく話に尾音ちゃんが喝をいれる。
「そんな事より、ゲームのは・な・し!」
「分かったから落ち着いて…」
私は、机を強打して赤くなった尾音ちゃんの手を横目に宥める。
「僕の聞いた話によると、ゲーム特化仕様の新製品が発売されるらしい!」
「確か『リンクス』ですね~。ゲームに必要な機能以外搭載されていないそうです」
「でも、高いんじゃないの?」
『アライン』は常に品薄状態で、今にもプレミアが付く勢いだ。
「そうですね~。『アライン』よりはお安くなって、15万円ほどでした~」
「十分高いわよ…」
「わたしは『アライン』を持っていますが~」
「楓ちゃんは、お兄さんに買ってもらえば?」
「ええ?」
私の兄、
どこからか怪しげな収入を得ていて、おこずかいで困った様子など見たことがない。
だけど私は甘えるのが上手ではないので、色々心配だ。
「でもなー」
「お願いするだけ、してみたらどうですか~?」
「ついでに僕のも!」
「それは無理でしょうね~」
軽くツッコミを入れる椿ちゃんを余所に、私の頭はどうしたものかと思考がグルグルと揺れていた。
♪
「ただいまー」
つまらない式が終わっての帰宅。
毎年の光景である。
「後三日…ね」
『グリモワール・オンライン』最後の一日は酷かった。
イベントボスの行動が徐々に鋭くなっていた。
学習機能、敵も学習していたのである。
最後の一撃を受け止められて、結局完敗だった。
「ただいまー」
「「お邪魔してまーす!」」
「お客さんかな?」
♪♪
「お邪魔してます、お兄さん!」
リビングに降りると尾音ちゃんが元気よく声を上げた。
「いらっしゃい、いつも元気だね尾音ちゃん」
尾音ちゃんはいつも、元気いっぱいだ。話をしているだけで、周りの人も元気にしてくれそうだ。
「こんにちは~、仁さん」
椿ちゃんはおっとりとした雰囲気だけど、しっかり者だ。財閥グループの一人娘だそうだから、教育がしっかり根付いているのだろう。
「あ、あに…お兄ちゃん」
楓は家族の前以外だと、兄上とは呼ばない。
そんな呼ばれ方をすると、ご近所さんからの視線が怪しいのでやめてもらっている。
「お帰り、楓」
「た、ただいま」
楓の挙動がぎこちない。
まるで、捨て犬を拾ってきた近所の幸一くんみたいなぎこちなさだ。
「楓?」
♪♪♪
「楓?」
私の目の前には不思議そうに此方を窺う兄上の姿。
緊張して体の動きが、ぎこちなくなっていたかもしれない。
今なら、ロボットダンスをマスターできそうです!
「えっとね?」
「どうした、犬でも拾ってきたのか?」
そんな、近所の幸一君みたいな表情をしていたのだろうか?
「そうじゃなくて…」
私の視界には見届け人として、やってきた親友達がしっかりと映っている。
なぜファイティングポーズなんだろう?
「三人で…遊ぼうってなってね」
「うん」
「それで、どうせやるなら話題になってるから『グリモワール・オンライン』をって話になって」
がんばって口を動かすけど、ちゃんと伝わってるかな?
「ああ、なるほど」
「私『アライン』持ってないから…」
「欲しいのか?」
私はぎこちなく頷く。
「う、うん」
よかった。とりあえず意志は伝わったみたい。
「うーん、『アライン』は難しいな」
その言葉で尾音ちゃんは肩を下す。
なんで私よりガッカリしているのだろう?
「『リンクス』でいいか?」
え?
「良いの!?」
「『アライン』はまだ品数が少ないから、間に合わない」
「うん」
「その点『リンクス』なら発売近いから、幾つか抑えられる」
この人は幾つ買う気なのだろう。
もしかして、またコネでなんとかする気なんだろうか。
「お兄ちゃん?」
「まぁ、三台で良いよな?」
尾音ちゃんの顔がパァッと明るくなった。
「折角だし三人お揃いで…どうした?」
私と尾音ちゃんは、つい抱き着いていました。
椿ちゃんは申し訳なさそうな表情をしていましたが、兄上のお金に固執しない性格を知っているため何も言いませんでした。
「ありがとう!!」
私たちは窮屈そうな兄上を余所に、気持ちはゲームに向かって膨らんでいた。
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