第5話 称号
「…どうしよう」
俺の目前には、空中に浮かぶ一冊の本があった。
革の本に銀色フレームで覆われている。その上を赤いラインが中央に向かって半円を左右から描いたような模様が付いている。本の裏側を見てみると同じ模様があった。表裏で違うのは本の中央で光を反射している宝石の有無と、宝石の有無で微妙に異なっている意匠だ。
≪グリモワールの名称を設定してください≫
本に名前を付けるのは違和感があるけども、感性の命ずるままにパッと思い浮かんだ名前を入力する。
≪グリモワールの名称は『グロノス』に決定しました≫
「これが…グリモワール?」
名前を付けている間、姉さんは俺に気を使ってか無言を貫いていた。表情を読んでいたのか、終わった頃合いを見計らって声がかかる。
「そうみたい…なんか称号取れた」
「…称号?」
そう言うと思案顔で、グリモワールを起動させる。
「んー…『第100階位の魔導書』…名前?」
先ほどの俺と同じように名称を設定しているのだろう。ここは邪魔せず、静かに待つ事にしよう。
待っている間退屈だったので、空中にふわふわと浮かぶグリモワールを眺める。姉さんのグリモワールは俺の物と同じ形状、模様をしている。違うのはその色だ。
俺のグリモワールは銀色を主体に赤色で線を描いているが、姉さんのグリモワールは主体が紫、そして半円が空色である。どうやらプレイヤーの選択した色に大きく影響を受けている様に見える。
「よし…決めた。『フリード』」
また思考が脱線し始めたところで、姉さんの声が聞こえた。
「…んー?」
「姉さん?」
「ジン、ステータス見た?」
「あ、そうか。ステータスに称号の欄があったっけ」
名前 ジン
性別 男
Lv 1
HP 38
MP 55
筋力 11
体力 11
器用 21
精神 16
知力 16
俊敏 6
運 6
ボーナスポイント 0
グリモワール 収集のグリモワール(グロノス)
装備 なし
所持金 500コル
スキル 【鑑定Lv1】【魔書術Lv1】【採取】【採掘】【調薬Lv1】
称号 『始原の魔道』『第100階位の魔導書』
「ステータスが変わってる?」
「…え?」
姉さんにステータスを見せると、称号の部分を指し示す。
「ジン…この称号…」
称号 始原の魔道
全ステータス+1 全プレイヤーで初めて魔道に触れた証
「あ」
「これが原因…」
テキストとタイミングから考えて、グリモワールの起動が切っ掛けになったのは間違いないだろう。
「…全ステータス+1?」
「何か…強すぎないか?」
全プレイヤーで初めてってことは、他の人が取れない称号だよね?
「
「そういうもの?」
「気にしなくていい…でも、後で掲示板に書き込んでおかないと」
クローズβ版が始まったばかりだが、早くも掲示板があるのだろうか?
「もう掲示板ってあるの?」
そう聞くとと姉さんは、顔をしかめた。
「…あ…伝えるの忘れてた。ゲーム内に掲示板がある」
「ゲーム内で…掲示板?」
「グリモワール・オンラインは唯のVRゲームじゃないから…アラインの色んな機能を試したりしてる。えっとメニューの設定から、メニューの一覧に追加できる」
設定を開いてみると、確かに掲示板のメニュー追加が設定できた。
「本当だ。しかも既に複数立ってる」
攻略板、エリア別情報板、検証版、生産版。使えそうなのは、こんな所だろう。
変わり種は、美人情報交換掲示板だろうか?
「私が攻略版に書き込んでおく、でも称号は書かなくていい。グリモワールの起動の仕方だけでいい」
「まぁ、間違いなく面倒事だもんなぁ」
姉さんは頷くとウインドウに向かって、指を小刻みに動かし始める。
「ジン…このまま真っ直ぐ行ったところに、武器を売ってるお店があるみたい」
掲示板で調べたのか、姉さんは道案内を買って出る。
「わかった」
♪
「おう、ありがとよ!」
スキル書の一件で手持ちも少なかった俺は、武器の購入は手早く済んだ。戦闘スキルが無くても武器を持つことは出来るみたいで、振り回す事ぐらいなら問題なさそうだ。それで買ったのは、ナイフ一本。
白鉱のナイフ 種類 ナイフ レア度1 耐久度320
能力・効力 筋力+1器用+2
さて、色々あったが武器手に入れた。姉さんがいる内に、次は戦闘を試してみよう。
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