第4話 スキルの書
姉と二人で装備を整えるようと、商店を探して街の中を歩き回る。本来なら生産活動で姉のアシストをしたい場面なのだが、素材、設備さらにはスキルすら無いので手の出しようがない。
「ジン…あれ」
姉さんが指を指し示す方向に視線を飛ばすと、怪しげな雰囲気が漂う店があった。扉に掛かっている看板には、厚い本の上魔法を連想せる様な六芒星にが描かれている。しかし、本の表紙には見た事のない文字が刻まれている。この世界の文字なのだろうが、読み解く手段があると良いのだが。
「何の店だろう…姉さん!?」
無言で店の中に入って行く姉さんに声をかけたが、あえなく失敗に終わる。
弟の話を素直に聞くような姉であったのなら、今頃はゲームではなく昼食の時間だった。仕方がないと諦めて、姉に続いて店の中に入る。並び立つ本棚と鼻孔に届く埃の匂い。
「…おや、お客さんかい?」
店の奥から珍しいものを見つけたとばかりに、老人が歩み寄って来た。
「…あー、ここは何を扱っている店なんだ?」
恐らく店主であろうその人物は、藍色のロープの底から胡散臭そうな顔を覗かせる。見た限りの年齢であるのなら、それなりに高齢であろう。
「ヒヒヒ、ここはスキル屋じゃよ。扱っているのは、『スキルの書』だの…」
「スキルの書?」
「なんじゃ、知らんのか?」
俺が頷くとその老人は店の商品棚から、本を取り出すと説明を始めた。
「スキルの書と言うのは、所有者が本を開くことで新たなスキルを獲得することのできるアイテムじゃ」
このゲームでスキルを入手する手段は、スキルの書を購入する必要があるようだ。
「ただのう、この店で扱っていない物も当然ある。別の街で取り扱っているスキルの書だったりのぅ」
これはゲームの序盤で初心者に高性能のスキルを入手させたくないのだろう。RPG手法だと思う。最初の街ではそれほど高性能なスキルは無いのだろう。
「あとは…迷宮ダンジョンかのう。宝箱から本が見つかる事もあるそうでの」
ダンジョンの宝箱から出て来るのなら、ボスからのドロップも十分ありえるな。
「あとは……おお、そうじゃ。強力なモンスターを討伐した際に見つかることがあるそうじゃ…まぁ、噂じゃがのう」
「ジン…これ、見て」
いつの間に移動したのか、俺の側に立つ姉さんが淡い光に包まれた本を差し出す。
「…なんだ?」
「ん…光ってる」
その声を聞くと老人が驚いた様に声を上げた。
「…光が見えるということは、グリモワールを宿しているのじゃな。この年になってグリモワールの宿主に出会う日が来ようとは…」
グリモワールの宿主の事が気になり、老人に話を聞くとグリモワールの宿主と言うのは、NPCの感知するプレイヤーの呼び名らしい。現在でこそプレイヤーの呼び名だが、この世界の歴史を紐解けば、過去に英雄として称えられた多くの人物がグリモワールを体に宿した存在だったそうで、何やら歴史的背景を匂わせている。
これからグリモワールの宿主、つまりプレイヤーが増えることを教えると客が増えると喜んでいた。
「それは良いことを教えてもらったの。礼をせねばなるまいて…そうじゃ、そのスキルの書は譲ろう。おお、二人おったんじゃったな。まっとれ」
そういうと店の奥から、手元の本と同じように光る本を持って戻った。
「そのスキルの書と同じものじゃ、持ってお行きなされ」
この世界に降り立ったばかりで、断る理由もないと本を受け取り、聞いた通りに開いてみせる。
≪スキルの書を使用しました≫
名前 ジン
性別 男
Lv 1
HP 30
MP 50
筋力 10
体力 10
器用 20
精神 15
知力 15
俊敏 5
運 5
ボーナスポイント 0
グリモワール 収集のグリモワール
装備 なし
所持金 2000コル
スキル 【鑑定Lv1】【魔書術Lv1】
称号 なし
ステータスを確認すると、確かにスキルが増えていた。スキルの欄に【魔書術Lv1】が追加されている。なんとなしに魔書術の文字に触れてみるとステータスとは別のウインドウが浮かび上がった。
魔書術
グリモワールの操作に必要なスキル。このスキルがないとグリモワールを使用することができない。
Lv1アーツ【起動】グリモワールを起動する。
どうやら【魔書術】を入手しなければ、グリモワールを起動させることすら出来なかったようだ。どこまでも不親切である。
「それで…他の『スキルの書』は買っていくかの?」
♪
「ありがとうよ…またのお越しを!」
買ってしまった。
店の外に出た後、正気に戻るも仕方がなかったのだと自分に良い訳を始める。ネットショッピングで商品を見ていたら、つい気に入ってカートの中に入れてしまうのと同じ心境だったのだ。店売りのスキルを見ていると戦闘系はもちろん生産系や補助スキルも数多く売られていたのだ。
決して無駄な買い物ではないが、おかげで残金500コルである。
「ジン…買いすぎ」
「…返す言葉がないです」
このゲームでやりたい事が生産に振り切っている今の心境では、このスキルの数では全く足りていない。
名前 ジン
性別 男
Lv 1
HP 30
MP 50
筋力 10
体力 10
器用 20
精神 15
知力 15
俊敏 5
運 5
ボーナスポイント 0
グリモワール 収集のグリモワール
装備 なし
所持金 500コル
スキル 【鑑定Lv1】【魔書術Lv1】【採取】【採掘】【調薬Lv1】
称号 なし
調薬を買ったのは良かったが、鍛冶や木工も手に入れたかった。そして買ってから気付く、調薬って道具はどうするんだと。
しかも戦闘して稼ごうにも、戦闘スキルが一つも無い。これはマズイかもしれない。とにかく今は、所有スキルの詳細を確認しておこう。
鑑定 アクティブ
鑑定のレベルと同じレア度のアイテムを鑑定できる。
石を石と見分けることが出来る。
魔書術 アクティブ
Lv1起動 (グリモワールを起動する)
グリモワールの操作に必要なスキル。このスキルがないとグリモワールを使用することができない。
採取 アクティブ
色々な場所で採取できる。
採掘・伐採と並ぶ素材採取の基本にして奥義のひとつ
採掘 アクティブ
色々な場所で採掘できる。
採取・伐採と並ぶ素材採取の基礎にして奥義のひとつ
調薬Lv1 アクティブ
様々な素材を元に薬を生成する。レベルによって成功率が変わる。
薬も作れるが毒も作れる。
買ってから気付いたものが、もう一つあった。採取と採掘にスキルレベルが設定されていない。つまり熟練度が必要ないということ、どんな素材アイテムも手に入れられるポイントにさえ辿り着ければ採取・採掘できるという可能性が高い。
「遠回りが近道になった…私のおかげ♪」
「…そうだな。姉さんがいなかったら、ロクなスキルもないままβを終えてそうだ」
「そして…ジンのおかげ。私一人だったら…あんなに話し、できなかった。ありがとジン」
姉さんは人見知りするからなぁ…その分、気を許したら扱いが雑になると言うか。
照れ隠しにグリモワールを起動する。
「グリモワール『起動』!」
≪称号『始原の魔道』を獲得しました≫
≪称号『第100階位の魔導書』を獲得しました≫
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