中編

 ダニー自慢のオープンカーは、海岸線の風を浴び、ビーチへ向かっていた。

「バベルパープル聞くか?」

「ロックはいい。ポップスにしようぜ」

 その提案に、後部座席の2人もサムズアップで答えた。

「よし決まりだ」

 哀愁の曲調と歌詞は、本来なら反発する一面の青空と光に、溶け合っていた。


 4人は、砂を踏みしめる。ビーチパラソルとビーチチェアを広げ、テリトリーが出来るのにそう時間は掛からなかった。

「マーティン、コーラで良かったよな?」

「もちろんさ、ダニー。レモネードは君らで楽しめばいい」

 ダニーからマーティンに渡ったコーラは、すぐになくなった。


 3時を過ぎ、そろそろ頃合いだというのは、何も言わずとも4人の共通認識となっていた。後は、誰が言うかだ。いや、その『誰か』さえも、4人の中で答えは分かっていた。

 こういう時はいつも、マーティンの役目だった。

「そろそろ場所を移そう。ビリーとアリサのバーベキューが待ってる」

 

 肉の胃を揺する香りが、4人を出迎えた。

「グッドタイミング!お肉が寂しがってるよ」

 アリサはふくよかな腕が、4人を順番に包んだ。

「アリサ、もう行っていい?」

「ええ、どうぞ。マリナ」

 マリナは満面の笑みで、マーガレットを誘い、庭へと急いだ。それを追いかけるように、マーティンとダニー、そしてアリサも庭に走った。


 ビリーの焼き加減は天才的だった。世界大会レベルと言えた。肉はもちろん、野菜に酒に、果ては焼かないスイーツまでもに、6人は大いに没頭した。

「日が変わるな…。そうだ!赤い木に行かないか?」

 普通なら青ざめるところだが、精神的なハイ状態というのは、人を鈍らせるものだ。そのダニーの提案に、誰一人異議を突き付けるものは無かった。

 

 酒の飲めないアリサは、運転を買って出た。そして無事に5人を目的地に運んだ。ただ彼女だけは、車を降りることは無く、ただお気に入りの音楽を聴き続けていた。


 夜でも、その葉の見事な赤さが分かった。この月明りだけの暗闇でも。

「さぁ伝説を掘り起こそうか」

 様々な噂が渦巻いているが、中でも『木の下に埋められた髑髏』と『右腕が斧の男』は、特に有名でかつ、何故か具体的だった。恐らく彼ら世代のアメリカ人なら、ほとんどが知る都市伝説であろう。


 大木の根本、太い根っこがせり出す前方の土を、5人はスコップで掘り返した。都市伝説とはいえ、5人も本気で信じているわけではなかった。いわゆる若気の至りだった。怖いもの知らずと言う名の。

 そうは思っていたものの、ダニーは何か硬いものに触る感触があった。不自然に止まったダニーを見て、4人も止まった。酔っていたはずの赤い顔は、色が変わっていた。

「どうした?」

「いや…」


 ダニーは先程とは真逆に、高速でスコップを操った。その物体の輪郭を出すために。そして浮かび上がったそれを土中から空中へと移した。

 中に詰まった土を出すと、眼球があった窪みが、ダニーを見つめていた。

「おい!ダニー!それって…」

 ビリーは腰を抜し、女性陣は顔を覆い、地面にへたり込み、マーティンとダニーは、それを見たまま呆然と立ち尽くした。


「髑髏だ…」

 弱弱しい呟きの後に、ダニーは突然、悪魔でも宿したかのように、持っていた髑髏を地面に叩きつけた。

 そしてスコップで執拗に叩きつける。友人の唐突な狂気を、必死に止めるビリーとマーティン。だが、砕けていく頭蓋骨。結局、頭蓋骨は原型を保てず、バラバラになってしまった。

「ダニー!なんてことを!」

 ダニーは狂乱し、もはや会話もままならなかった。マーティンとビリーを突き飛ばすと、何故か木の裏側の方へと、猛スピードで走っていた。マーティンとビリーは、追いかけた。

「おい!そっちに行ってどうする!?」

 マーティンの叫びは、闇に消えていった。


 大木といえども、反対側へ行くのに何km、何十kmとあるわけではない。すぐに木の裏側にたどり着く。しかしいざ裏側が見えようとしたその直前、二人は足元の何かにつまづき、派手に転んだ。暗い闇の中であるが、月明かりの僅かな光がそれにあたり、その正体を知らせた。


 それは人間の首から上。もっと言えば、ダニーの首から上。立ち上がれず、震えだす2人。しかし生命の危機は、2人にも迫りつつあった。


 2人は、気づいた。背後からの気配に。

 

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