アンダー・ザ・レッドツリー

堂壱舎

前編

 既に昼のニュースが始まっていた。ペルウォートでまた、不審死があったらしい。世の中、物騒だ。

「ピーター、さぞいい目覚めだろう」

「そうでもないさ」


 ピーターは大きな欠伸のあと、顔を洗ったり口を洗ったりして、それから冷蔵庫から買いだめしていたサンドイッチを出す。特大サイズだ。

「マジで行くのか?ジェイムズ」

「当たり前だ。赤い木が呼んでいる」

「呼ばれたくねぇな」

 モグモグとサンドイッチを食べながらも、ピーターはジェイムズの話を真剣に聞いた。


 赤い木。アメリカの片田舎、ストンビークにある都市伝説。そこに近づくと、死ぬという噂だ。やれ先住民族の祟りだ、やれ昔住んでいた娘の怨念だ、などとまことしやかに言われているが、誰もはっきりとは知らない。原因については噂とはいえ、実際に行方不明者がいるのは事実だ。ピーターとジェイムズはその行方不明者を追うのも、目的だ。


 そしてジェイムズがピーターに話したこと。それは、『噂』の検証だ。数ある噂の中でも、妙に具体的なものだ。


『赤い木の下に、片手が斧のゾンビが埋められていて、夜近づいた者がいれば、土から蘇り、首を切り落とす』


 しかもこの話には、証人がある。マーティン・エイン。ストンビーク生まれストンビーク育ちの男だ。


 築2、30年と言ったところか。もはや純白とはほど遠い壁の家が、その証言の在処だ。


 ドアのノック音。隣の庭の犬が吠える声。それを叱るおばさん。軽トラックのタイヤとエンジン音。高校生の世間話。そして、ドアが開く音。

「やぁ。君がマーティン?」

「もしかしてコールマンさん?」

「ジェイムズでいいよ」

「どうぞ」


 中は散らかってはいないが、片付いてるというほどでもない。ギターとベースがあり、ラックにはやたらと70年代のロックバンドの名曲たちが並ぶ。サカラー世代には見えないから、親の影響だろうと、ジェイムズは何となく考えた。

「コーラでいいですか?」

「パイン味じゃなきゃ。それで…」

「あぁ…」

 マーティンは客人2人が座るのを見て、自分も座る。目線は2人の足元。特に変わった靴を履いているわけではない。

「あれは大学生の時でね、夏休みでしたよ。大学最後の」

「卒業記念?」

「ええ。みんなもう、進路は決まっていたので」

「あの日は心地よい風で…」

「地平線まで、澄み渡る青空でした」

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