佐藤さんが仲間になりたそうにこちらを見ている
悪代官のような金魚とそのフンはどこか遠くへ行ってしまった。あっけない終わり方である。三浦くんの方を見ると,先ほどとは打って変わって生き生きとした表情をしている。
「コウシくん,ぼくは感激したよ。ぼくもコウシくんのように強い人間になりたいと思う。」
「三浦くんにそんなことを言ってもらえるなんてぼくは大変光栄だ。それに,ぼくは三浦くんの断固としてあのような連中とは関わらないという態度を見習いたいと思っていたところなんだ。どうもぼくはあの手の連中に仲良くしたくもないのに絡まれやすい性質があるみたいなんだ」
「それ,どこまで本気なの? ぼくはただ怖くて下を向いていただけだよ。それに,コウシくんのあの煽るような言い方,わざとじゃないんだね」
「三浦くん,ぼくはああいう連中と絡むのが好きではないから,言いがかりをつけられるようなことはしていないつもりだよ。でも,口をついて失礼なことを言っちゃっていたのかもしれないな」
ぼくたちは先ほどの事件の分析をしていた。正義のヒーローの存在にものの見事に触れずに。
「二人とも何だか変な話し方。だけど楽しそうね」
佐藤さんは仲間になりたそうにじっとこちらを見ている。ぼくたちは,佐藤さんを仲間として引き入れることとした。佐藤さんも知的で賢いから,いろいろなことを学ぶことが出来るのかもしれない。
翌日,中川くんバツが悪そうにやってきた。
「昨日は悪かったよ」
中川くんが神妙な顔をして謝りに来た。どうしてそんな態度を取っているのか,何に対して謝っているのかも分からないぼくは中川くんの顔をじっと見つめた。
返事の返ってこないことにじれったさを感じたのか,中川くんはもぞもぞしだした。身体がチンアナゴのようにゆらゆらしているのをみてぼくは思わず笑いそうになった。チンアナゴは,宮坂くんが授業中によくやる座ったまま眠る技で,その技は必ず先生に気付かれて怒られるというオプションまで付いている。そこで終わらずに檄を飛ばされた宮坂くんは,まさにハトが豆鉄砲を食らったような顔をして面食らったようにしてそこから動かなくなる。ぼくはこの現象を,”チンアナゴの食物連鎖”と名付けた。これを三浦くんに言うと「あまりにもネーミングセンスがなさすぎる」と返された。三浦くんが言うからきっとそうなのだ。
そんなことを思い出しながら笑いをこらえて中川くんを見ていると,今度は目線が泳ぎだした。先生がきたのだろうか。それとも何かほかに具合が悪いことがあるのだろうか。ぼくは中川くんの目線の先を捉えようとして追った。その視線の先を捉えて,少し考えるとぼくはひらめいた。
「中川くん,きみは佐藤さんのことが好きなんだろう」
近くにいた何人かがこちらを向いた。中川くんはぼくの頭をぶった。
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