雨音とともに君は
SIN
第1話
ぽつり、ぽつり、と雨が降り出してきた。どうやら天気予報が嘘をついたみたいで。僕は鞄の奥底にしまっておいた折り畳み傘を取り出した。カバーを外して、取っ手を伸ばし傘を開く。昔の僕ならこんな雨、傘なんてささなかったのに。
君のせいだね。
いつも歩く道を、ほつり、ほつりと歩く。右手で傘を持つ癖がまだ直っていなかったことに、懐かしさと悲しみが混ざったような感情になった。当たり前だった君のいる景色はもう、どこを探しても決して見つかることのない景色。手を繋いで歩いた道も、一緒に見上げた雨空も、僕の名前を呼ぶ、あの愛しい声も。
______________
雨が降る中、傘をさして君の元へと足を進める。地面の水が足を上げるたびにはねて、僕の靴を濡らしていく。また軒下で待っているのかなと思いながらそこに向かえば、ほら、灰色の空を見上げながら、後ろで手を組んでいる君がいた。
「また傘忘れたの?」
そう笑いながら君の元へと開いた傘を差し出す。
「ありがと」
ふんわりとやわらかい笑みを浮かべて、君が僕の隣に入った。
「また一つしか持ってこなかったの?」
「まあね」
“いつもより、近くにいられる”
二人とも、考えていることは同じだった。
「帰ったらお風呂、入らなきゃね」
「うん」
二センチ、距離を近づけた。
______________
傘を閉じて空を見上げた。この行き場のない想いを、すべて流してしまいたくて。次第に強くなる雨脚が、僕の心のようだった。君がいなくなっても決して色褪せることのない淡い思い出が、雨が降るたびに濃くなっていく。
針のように肌を突き刺す雨が、力強い音を立てて降り注ぐ。
でもそれでも、あの時聞いた雨音だけは、胸に響いて消えなかった。
雨音とともに君は SIN @seventeen171122
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます